転生赤ずきん

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 オオカミはプライドを忘れてありがとうと感謝した。脇目も振らずに走り出し、たどり着いた本屋には子供たちの行列が出来ていた。  答えがあると確信したオオカミはその列に並んだ。子供たちはオオカミを恐れていない。馬鹿にしたように笑う者や可哀想な目で見る者までいる。  ようやく、オオカミの順番が回って来た。平積みに並べられた大量の絵本。そのタイトルは「赤ずきん」。その主人公は紛れもなくあの転生赤ずきんであった。そして、悪役として描かれているのはオオカミだった。  オオカミはその場で絵本を開いた。周囲の視線など気にする余裕もなく熟読した。そこに描かれていたのは、転生赤ずきんとの出会いの日であり、自分が誘いに乗ってしまった場合の運命が描かれていた。  おばあさんを飲み込み。赤ずきんも飲み込んだオオカミは、突然の睡魔に襲われる。そう、赤ずきんに睡眠薬を飲まされていたのだ。  お腹を切られても起きるはずはなく、石を詰められても、お腹を縫われても気づかない。目覚めたオオカミは意識がもうろうとしたまま激しい喉の渇きに襲われる。たどたどしい足取りで向かうのは川。そこへ迷わず行けたのは、去り際に転生赤ずきんが叫んでいたからだった。  そして、水を飲もうと川へ身を乗り出すと、石の重みでバランスを崩してしまう。そのまま川へ落ちたオオカミの死因は溺死である。  オオカミは震える手で絵本を閉じた。切られていないのに、思わずお腹を触れて確かめた。娘たちが大きなハサミを持っている理由がわかったからだ。オオカミは店長へ尋ねた。 「この絵本はどのくらい広がっているのですか?」 「世界中です」  自分に逃げ場がないことを悟ったオオカミは、二度と悪さをしないと誓った。  そして、転生赤ずきんは、この絵本の印税によって、おばあちゃんの治療費を一括で支払い、前世で3万まで減った貯金は億を超え、ようやく幸せに暮らしましたとさ。                おしまい
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