転生赤ずきん

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 あの有名な童話「赤ずきん」に転生した女がいた。前世で結婚詐欺にあった女であった。  転生した先の村は小さくても人情に溢れ、村人の誰しもがトレードマークの赤ずきんの名前で女を呼んでいた。  夕ご飯のお使いに出かければ、必ずおまけのお菓子をもらえたし、馬車が通れば近くまで乗せてもらえた。雨が降れば雨宿りだってさせてくれる。転生赤ずきんを可愛いってみんなが言ってくれる。そんな温かい村だった。  だけど、転生赤ずきんはそんな村人の好意をすべて断っていた。おまけのお菓子をくれる八百屋のおじさんには病弱な娘がいた。お菓子で恩を着せ、治療代を引き出そうと騙していると恐れていた。  馬車に乗った行商人のおじさんには頭のいい娘がいた。いつかその娘が留学したいなんて言い出して、その費用を肩代わりさせようとしていると恐れていた。  雨宿りをさせてくれるおじさんには娘はいない。それどころか奥さんも両親もいない独り身で無職である。どうやって食いつないでいるのかもわからない。正真正銘、ヤバい奴だった。  とにかく、転生赤ずきんは前世で結婚詐欺にあったことで、度が過ぎるほど疑り深い人間になっていた。せっかく可愛い少女に生まれ変わって、両親だけでなく、村人みんなから愛されているのに、それを疑って自分の幸せを信じられないでいた。  ちなみに、疑うキーワードになっている、おじさんと娘。これは前世で騙ましてきた男の手口である。  そんなある日。お母さんから病気で寝込んでいるおばあちゃんの家へ、ケーキとブドウ酒を持ってお見舞いに行くように頼まれ、悪いオオカミが出ても、話を聞かずに逃げるようにと注意を受けた。  朝食を食べ終えたばかりの転生赤ずきんは、使った食器を流しへ運ぶ途中であった。動揺が指先を震わせ、食器を床へ落として割ってしまう。 「お母さんは危険だとわかっていて、私を送り出すのね」  転生赤ずきんは前世の記憶がはっきり残っている。だから、自分が赤ずきんに転生したってことはわかっていた。とうとう、この日が来たって恐怖で震えていた。自分がオオカミに食べれてしまう。童話では猟師に助けられるのだけれど、それが再現される保証はどこにもない。  本当だったら行きたくない。けれど、おばあちゃんが病気でつらい思いをしているのは事実。そして、その病気を治すためには莫大な治療費がかかる。小さな村の家族に到底払える額ではないのだ。ただし、治す方法は一つだけあった。それはオオカミに食べられること。  理由はわからない。でも童話では食べられたショックで病気が治ると書いてあったのを覚えている。そこに賭けるしかない。転生赤ずきんはお母さんからケーキとブドウ酒を受け取った。
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