災難

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災難

俺は何ともなしに、歩いた。 比較的新しい住宅街を抜け、暫く歩きミドリ商店街という商店街に入る。 昔からある商店街なので、少し古臭いのだが、またそれがいい。 おばさんがセールになっている服を漁り、早く仕事を終わらせたのであろうサラリーマンがラーメン店や居酒屋にごった返す。 「……落ち着くなぁ。」 中学生の時はこんな所知らなかった。 毎日勉強に習い事に部活に追われ、常に親に監視され育ってきたせいだろう。 そんなことを思いながらぼやっと歩き花屋の角を曲がった瞬間、目の前から少年2人組が突進してきた。 2人は追いかけっこに必死で、俺に気づかなかったらしい。 俺は突然の事で避けられず、案の定、少年1人が初めに俺に真正面から突っ込み腹に頭が直撃した。 1人だけなら良かったものの、俺の腹に直撃した1人の他にもう1人突っ込んできたので、俺はバランスを崩した。 ガッシャーーン 何かが割れる音がした。 しまった。 やってしまった。 そっと右後ろを振り向くと、花や鉢が散々になっていた。 「えっ!何やってるの!」 店の中からおばさんが出てくる。 小学生2人組は顔が青ざめ、 「やべ!逃げろ!」 と言って逃げてしまった。 残された俺とおばさん。 あとギャラリーが少し。 「……全くもう!……あ、あなた大丈夫?ごめんなさいね。」 ぷりぷりと少年たちに怒ってるおばさんが俺に気づき、まだ尻をついている俺に手を差し伸べる。 俺はパンパンっとズボンを払い、おばさんの力を借りずに立ち上がった。 「大丈夫です。それより、これ……ごめんなさい、」 「……あぁ、いいのよ。あなたが悪いわけじゃないから。」 そう言って少し悲しそうに割れた鉢や散々になった花を見る。 あぁ、今日は災難だな…… 俺はカバンから財布を取り出した。 「弁償します。……これとこれと……あ、鉢5つと花束6つですね。」 俺は花束を入れていた樽や鉢についている値段を確認し始めた。 「えっ!いいのよ!学生にそんなことさせられないわ!」 慌てるおばさんを尻目に俺は値段を確認していく。 「……1万3000円ですね。」 「ほんとにいいの!自分の使いたいことに使いなさい!」 制止するおばさんに俺はお金を押し付けるように渡す。 「ほんとにいいんです。今日ちょうど母の誕生日で、買い物に来ていたんです。 ちょうど良かったんです。 あ、なのでラッピングお願いできますか?」 俺は笑顔でおばさんに頼んだ。 別に今日は母さんの誕生日でもなんでもないんだけど。 「あ……そうなの。すごくいい子なのね。 それならお母さんのために綺麗に飾るわね。ちょっと時間がかかるからお詫びと言ったらなんだけど、奥のテーブルに座って待ってて。昨日娘が作ったケーキがあるから食べていきなさい。」 「え、」 「あら、ケーキは嫌い?」 「あ、いえ、好きです。」 「なら入って、ね?」 商店街特有の感じなのだろう。 おばさんは俺をちょっと気に入ったらしく、背中を押して俺を奥にすすめる。 洒落たテーブルに俺を座らせ、さあ、やるかーっ!と言った感じに花を集めるために表に出ていった。 表に出て、集めるのを手伝おうかと思ったが、逆に気を使わせそうなのでやめることにした。 ちょっとして俺はおばさんから目線を外し、あたりを見渡す。 それにしても、古い商店街に不釣り合いなくらい綺麗だよなぁ。 内装は白と茶色で統一されシンプルなのだが、それによって色鮮やかな花が目立つ。 感心していると、俺はたくさんの写真を飾っている棚に目がついた。
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