娘さん

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ

娘さん

そこにはおばさんの友達や家族であろう人が写っていた。 あ、この子、ケーキ作ったおばさんの娘だろうか。 入学式の写真であろう。 凛と立っている娘さんがいる。 あれ、この制服俺と同じ学校だ。 「よし。じゃあケーキ出すね。 ジュースはオレンジジュースかソーダどっちがいい?」 俺は少し夢中で見ていたので、花を抱えて店に戻ってきたおばさんに気づかなかった。 「あ、ソーダでお願いします。」 「はーい。」 おばさんは、奥の在庫室かなんかに向かっていく。 俺はおばさんの目を盗んで、もう一度その写真を見た。 見たことないけど綺麗な子だな。 他学年かな…… 俺は高1なので、もしそうなら年上だろう。 「その写真気になる?」 「あっ、え、いや。」 お盆を持ったおばさんがニヤニヤと見てくる。 「同じ学校の制服だったので……」 「あらそう!あなた何年生?」 「1年です。」 「あらそうなの。じゃあ高校始まって2ヶ月くらいなのね。慣れたかしら? この子ね今2年生なのよ。 そっかー、でも残念、それならあまりこの子と接点ないわね。」 そう言いながらお盆を作業台に置き、おばさんはそそくさと花をぱちぱち切り始めた。 「そう言えば、あなた名前なんて言うの?」 「聖川悠馬です。」 「いい名前ね。あなた容姿がとても素敵だから尚更映えるわね。」 え。 ふふっと笑いながらおばさんは花の整理をする。 「あらやだ、私気持ち悪い事言っちゃったわ。ごめんなさいね。」 「いえ。あ、このケーキいただきます。」 「召し上がれー。」 それから少しの沈黙が流れた。 娘さんの作ったケーキは、何とも手が凝っていて、売りものにできても不思議じゃないと思った。 「そのケーキ、美味しいでしょ。 うち、母子家庭だから私が稼ぐためにこの子が小さい時からよく家を開けててね。 寂しいはずなのに、小さい頃から我慢してくれて…… 私に苦労かけないようにって小学校の頃から料理するようになって、こんなに上手になっちゃって…… 我ながらよく出来た娘だと思う。」 おばさんは途中から誰に話しかける訳でもなく昔を思い返話し始めた。 「高校受験、塾に通わせたかったんだけど、私の老後のために使ってって言って、塾に行かないでよく市民図書館で勉強してた。今もよく行ってるみたいだけど。」 「はぁ……いい娘さんですね。」 「……あ!また要らないことを! ごめんね、ささ、食べてて。」
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!