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身体が弱く年相応に駆け回ることが出来なかった彼女なので、走る姿を見たのはこれが初めてだった。
まさかこんな形で見ることになるとは思わなかったけど。
遅れて駆け出したが、普段走ることが出来ない彼女に追いつくことなんて造作もない。
もう少しで彼女を捉えることが出来る。
そしたら、綺麗な赤の色で染めるんだ。
あと少し、
あと少しで……
次の瞬間、彼女は赤く弾けた。
足を止め、あっけに取られてふと気づく。
いつの間にか河原を抜け、車道まで来てたようだ。
無我夢中で必死で走っていた彼女は車道まで来ていた事なんて気づくわけもなく、
タイミング悪く来ていた大型トラックの前に飛び出してそのまま声一つ上げる間もなく、鈍い音を立ててぐしゃりと潰されてしまった。
目の前には彼女が作った赤色が広がっていた。
足元に目をやると僕にも少しだけ、彼女の色が付着していた。
白くて儚げな彼女にはとても赤の色が映える。
とても綺麗だけど、僕がこの手で赤の色を彩りたかった。
聲だって聞きたかったのに、表情だって見たかったのに。
この手で事切れる瞬間を、最後まで、ずっと。
いつも思ってたのに、いつも考えてたのに。
ずっと、ずっと、ずっと……
悔しい、
すごく悔しい……と、思った瞬間
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
急に目の前が暗くなり、意識が遠のいていく感じがした。
きっと、もう思い出すことはないだろう、
僕と彼女の最期の思い出。
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