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吐息のような、微かな細い呻き声が耳に届いた瞬間、手に力を込めるのを止めた。
僕の手から脱出した彼女は咳き込み、嗚咽し、荒く呼吸をする。
こんな事、しようとは思ってなかった。
考えていただけで、実際にやろうとは思ってもなかった。
それなのに、どうして……
まだ両手に首を絞めた時の感触が鮮明に残っている。
薄い肉の弾力と骨の硬い感触、体温、波打つ脈、
耳に残る細い呻き声、
目に焼き付いて離れない苦しそうに歪んだ表情。
もう一度、あの感触を、あの表情を見たい──
けど、それは駄目なことなんだ、きっと。
僕だって彼女を失いたいわけじゃない、だからやろうとは思わなかったんだ。
もうこんなことは二度とやったら駄目なんだ。
そう、固く決心し、まだ苦しそうに息をする彼女に手を差し伸べる。
「大丈夫……?」
「……っ!」
振り返って近づいた僕を見るなり、声にならない悲鳴とともに反射的に後ずさる。
ああ、そうか──
彼女の恐怖と得体の知れないものを見るかのような、その表情を目にした瞬間確信と共に僕の中で何かが崩れる。
僕たちの関係はもう壊れてしまったのだ。
自らの手で壊してしまい、修復など不可能なんだろう。
今までのように遊ぶことも、優しい笑顔を僕に向けてくれることも二度とない。
それなら、もう、いっそ。
一歩、彼女に歩み寄る。
一歩、また一歩と歩み寄るごとに、彼女もまた同じ分だけ距離を取る。
そして、
「……やっ!」
僕から逃げるために彼女は背を向け走り出す。
もう戻れないのなら、自らの手で彼女を殺したい。
どこからともなく湧き上がってくる感情。
この手に残る感触は一生消えてくれないのだろう。
そう思えるぐらいに心臓は、身体は、熱く高鳴っていた。
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