レッドゾーンだ貴様は

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レッドゾーンだ貴様は

「俺は今、赤い公園を聴いていたんだ。ボーカルが変わったんだ、今聴きたいんだ」 赤いシャツを着た赤川はこう言うのだが、赤いドレスの教官は共感出来ない。教官の真っ赤な唇から警告が飛んでくる。 「貴様がどんな音楽を聴こうがどうでもいい。重要なことは、貴様の人生がレッドゾーンに入っているということだ。どうする?貴様はこのままでは何も成し遂げることなく死ぬだけだ」 教官に脅され、顔を真っ赤にして怒る赤川のなんと滑稽なことか。 「赤いポストに投函してやる、俺の情熱を!」 そう言って赤川は、赤いシールを25点分貼った懸賞ハガキを勢いよく赤いポストに投げ込むのだが、その行為がレッドゾーンの恐怖を和らげるものではないと、赤川自身が理解している。 「赤川、貴様はやはりダメだ。赤ペンで間違いを何度も指摘されても同じ過ちを繰り返すような貴様はやはり何も成し遂げられない男なのだろう。残念だ、私が散々貴様を痛めつけて根性を叩き直してやろうと試みたのに」 教官は赤点をとる生徒につき、根性を叩き直しレッドゾーンから脱出させるのが責務だ。しかし、赤川のように全く響かない愚か者もいる。 「教官、あんたが俺に厳しく指導してくれるのはありがたいと思っているさ。おかげで俺は常にレッドゾーンにいる緊張感で人生が満ち足りている。俺は何者かにならなければという使命を常に感じているし、真っ赤な太陽を眺めても、後ろめたさを感じることが出来るようになっているよ。これは立派な進歩だと言えよう」 赤川は、こう言って自身の正当性を主張する。 「ダメだ、貴様は全く成長していない。結婚して家族を持とうともしないだろう」 「俺が赤子を育てようものなら、ひっぱたいて虐待して終わりさ。俺は犯罪者にならないよう自分を律しているんだ。親が子を殺す、子が親を殺すニュースの多さ!俺はそんな一瞬の有名人になるよりかは善良な屑でいたいと思うわけさ。全然迷惑をかけていない」 赤川は極めて冷静になろうと心を整えることに必死になっているが、赤い形相が隠せていない。全く無意味な反論の塔をドミノで立てている。すぐ倒れるだけだ。 「いや、貴様は迷惑をかけている。例えばこの不毛な会話が小説の一部だとして、読者を満足させることが出来るか、いや出来ないだろう」 教官がこう言うと、早速赤いポストに赤紙が届いた。赤川の元にも召集が来たのだ。 だが、赤川はレッドゾーンの人間である。教官の指導をもってしてもレッドゾーンから抜け出せなかった落第生である。そんな人間に待っているのは死だけだ。 「私の力不足だ、貴様を屑のレッドゾーン野郎のままにさせてしまったことは。私が自ら赤い青龍刀で貴様を刺し絶命させてやる」 赤いドレスに不似合いな赤い青龍刀を見せつけて、教官が最期の脅しにかかる。これに対する赤川の返答。 「教官、もうすぐ夜明けだ。真っ赤な太陽が昇るのがよく見えるはずだ。俺の予想が正しければ今日は晴天。大地は更に赤くなり、いい加減お偉いさんがたも太陽との戦争がバカらしいことに気付く頃だ。レッドゾーンに入っているのは俺だけじゃない。人類全員だ。そこで俺が出した懸賞ハガキが活きてくる。締切直前は狙い目なんだ」 赤川がそう言うと赤いポストから当選ハガキが飛び出してきた。 「教官、『夏の便祭り』に当選したぜ。夏の便に乗って地球を脱出さ。真っ赤な地球はしばらくは冷えない。だから、火星行きの便でしばらく逃げるんだ。これは未来の為の選択肢さ。太陽に向かって特攻するだけが人生じゃねえ。教官も本当は分かってるんだろ?だから、俺をギリギリ殺さなかった。便には2人乗れる。もちろん、俺は教官を誘う」 赤川の悪意のない笑顔のなんと無邪気で愚かなことか。 教官は青龍刀をしまい、笑うしかなかったのである。 (終)
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