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放課後の教室
温度がありそうな気がして、そっと触れてみた。
化繊のツルッとしたやわらかな感触を楽しむように、しだいに指にすべらせ胸元の校章のところで指を止めた。
私も同じ物を持っている、ごくごく普通の学校指定の赤いジャージなのに、好きな人の物だとなぜ特別な感じがするんだろう。
脱ぎたてでもなければ、ぬくもりなんて残っているはずもないのに、赤い色には温度を感じてしまうのも不思議だと思う。
忘れ物を取りに来た教室で、偶然にも一人きりで、偶然にも机から落ちかけていた好きな人のジャージを直してあげようという理由がなければ、たぶん触れる事はなかったかも知れない。
まだちゃんと話した事もない、見てるだけでドキドキしてしまう初恋を、私はまだ誰にも言っていない。
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