兄と弟

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兄と弟

苛立ちが最高潮になった所で、心配そうな顔をした暁斗が、雅を私の左脇から抱き上げた。 「まあちゃん、まだ機嫌直らなそうだね。しかも雅もそんな状態だし……。俺、お弁当自分で作るよ。」 「え。良いの?」 いつもはこんなこと言う子じゃない。 優しくて明るくて兄弟思いではあるけど、面倒臭いことが大嫌いな性格だ。 料理だって、嫌いだったはずだけど。 「だって、冷凍食品詰めるだけでしょ?」 そういうことかよ……。 「まあね。ご飯は炊けてるし、玉子焼きは後切るだけだから、他は冷凍食品温めて詰め込んどいて。」 「はいはーい。」 キッチンに向かう大きな背中を見ながら、「何だか成長したな」なんて思っていた。 「雅、八時までこれ見てろ。」 不機嫌極まりない雅をソファーに座らせると、雅の好きなアニメを見せてあげていた。 私に、あんなこと出来ただろうか。 きっと、怒鳴りつけて黙らせていただろう。 「暁斗、ありがとう。」 「え、何て?」 「何でもないよ、ほら、早くお弁当作っちゃいな。」 「うるさいなー。」 一回しか言わないよ、そんな恥ずかしいこと。 「ママぁ……?」 「はいはい、冷やそうね。」 まあ、もう腫れも引いてきてるんだけどね。 ケロッとしやがって。 「いたくないよぉ……?」 「痛くないんかい!」 思わず突っ込んでしまった。 蹴られたことに驚いて泣いてただけで、言うほど痛くなかったみたいだ。 「でも、ちょっとだけ冷やしとこうか。」 気だるげにお弁当におかずを詰める暁斗を横目で見ながら、真綾を雅の隣に座らせる。 「冷えピタ持ってくるからちょっと待っててね。」 だが、真綾の目は雅が見ているアニメに釘付けだ。 「お母さん、雅着替えさせて。もう少しで登校時間だよ。」 「本当だ、もう七時五十分……。」 暁斗と雅は、いつも八時に登校する。 本当は暁斗の方が早く行かなきゃならないんだけど、なんせ暁斗は私を越える過保護なのだ。 だから、何でもかんでも興味を持ってしまう雅が心配なのだろう。 「雅、着替えるよー。」 真綾に急いで冷えピタを張り付けて、アニメに夢中な雅を着替えさせていく。 その間に暁斗はお弁当を作り終え、服も着替え終わっていた。 何という早業……。
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