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兄と弟②
「ほれ、行くぞ雅。」
「嫌っ!」
「は?」
雅はまだ不機嫌だった。
両手で強くソファーの縁を掴み、嫌々と首を横に振る。
大好きなお兄ちゃんに反抗するなんて、なかなか見られない光景だ。
もう時計の針は、八時を示している。
暁斗も、流石に苛ついたらしい。
「分かった。置いていくからな。」
本当はそんなこと思ってないくせに、暁斗の口からそんな言葉が出た。
雅は下を向いたまま、何も言わない。
きっと、本当は反抗なんてしたくないんだ。
でも、ここで暁斗に泣きついたら、プライドが傷付く。
「いってきます。」
暁斗が冷たい声でそう言った。
このままでは、雅は確実に遅刻する。
それは、本人が一番分かっている。
「やぁ……。」
雅が泣いている。
でも、私は手出ししない。
雅が、どこまで出来るか試してみたいのかもしれない。
一人では何も出来ない、三年生とは思えない幼稚さを、早く何とかしなきゃとは前々から思っていたのだ。
「ママ……。」
小さな手が、私の服に手を伸ばす。
「さて、真綾を保育園に送ろうかな。」
わざとらしくそんなことを言って、ソファーに座らせたままの真綾を抱き上げた。
もう、雅はこんなことをされる歳ではないと教え込むように。
「っ……。」
その時、雅がソファーから勢いよく立ち上がった。
そして、玄関を出ようとしていた暁斗の背中に抱きついた。
「何。」
「ごめんっなさい……!」
言えた。
何があっても自分は悪くないと謝らなかった雅が、大きな声で「ごめんなさい」と言ったのだ。
「言えるじゃん。ほら、行くよ。」
暁斗が、雅に青色のランドセルを背負わせる。
雅はきっと謝れると信じて、部屋から持ってきたのだろう。
偉大な兄だ。
「うん……!」
「行ってらっしゃい。」
手を繋いで出ていく暁斗と雅を見ながら、自分の無力さを感じた。
兄弟って凄い。
親には分からない、絆で繋がっているんだ。
やっぱり私には、到底出来そうにない。
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