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末っ子②
「すみません!」
汗だくで先生に頭を下げる。
すると、先生は同じ様に、頭を深々と下げた。
「え?」
「すみませんでした……!」
思わず顔を上げると、そこには泣きそうになりながら頭を下げる先生と、その横に、ボロボロになった真綾が座っていた。
「ま、真綾……?」
「えへへ、お洋服汚しちゃった。」
涙をポロポロと流す真綾は、痛々しかった。
「何があったんですか、先生!」
「今日は、二人一組でお互いの似顔絵を書く日だったんです。」
先生は、ポツリポツリと話し始めた。
その内容は、何とも耐え難いものだった。
まず、真綾は保育園で友達がいないらしい。
それなのに、お絵描きは二人一組。
もちろん一緒に描き合う友達なんていなくて、教室の端に座っていた。
すると、人気者の大峰朱里という女の子が、真綾を誘ってくれたらしい。
真綾は嬉しくて、朱里ちゃんの似顔絵を頑張って描いた。
だけど、朱里ちゃんはその絵を見て、「有り得ない!」と叫び、絵の具を真綾に投げ付けた。
絵の具を洗う水も真綾に掛けたという。
酷い話だ。
是非とも真綾に心から謝って欲しい。
「その、朱里ちゃんは……?」
「お母さんも謝る気がなくて、朱里ちゃんを無理矢理連れて帰ってしまいました……。」
「絵が下手くそなまあちゃんが悪いの。みんな、そう言ってたもん。」
震える手を握り締める真綾を見ながら、私が三才児だった頃を思い出した。
こんなに、気を使えていただろうか。
きっと私は、泣きわめき、その子をボコボコに殴り付けただろう。
他人への配慮なんて、この小さな体には、大きすぎる荷物なのだ。
「真綾、もっと泣いて良いんだよ。沢山沢山、嫌なこと聞かせて?」
そう言って抱き締めると、真綾はたがが外れたように愚痴を溢し始めた。
「もう保育園行きたくないっ……!」
「そうだね、もう行かなくても良いよ。」
「怖かったぁっ……!」
背中にある手の平に、力が入ったのが分かった。
「怖かったねっ……。もう、大丈夫だからね。」
ポンポンと背中を優しく叩いていると、後ろの扉が控えめに開かれた。
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