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末っ子③
「朱里ちゃんっ!」
先生が目を見開いて叫んだ。
パッと後ろを振り返ると、涙を流す女の子が立っていた。
そして、靴を脱ぐ間もなく、膝を付き、額を床に擦り付けた。
「ごめんなさいっ……!」
その姿を見て、真綾は慌てて朱里ちゃんに駆け寄った。
「そんなの、やめて……。顔、上げて?」
どこまで、優しい子なのか。
それでも顔を上げない朱里ちゃんの肩を掴み、無理矢理顔を上げさせた。
「ごめっなさ……。ごめんなさっ……。」
「朱里ちゃん。」
私は、謝り続ける朱里ちゃんを心配そうに見つめる真綾を後ろに下げ、朱里ちゃんに話しかけた。
「何で、謝るの?」
「え……?」
「誰かに言われたから?」
朱里ちゃんは、コクリと頷いた。
「だったら、謝らなくて良い。帰って。」
三才児に厳しすぎると思うかもしれない。
だけど私は、真綾を見て気付いたのだ。
三才児だって、普通の人間だということに。
嘘だって吐くし、他人の幸せを喜ぶことだって出来る。
謝ることなんて、簡単なのだ。
大事なのは、何故謝っているのか。
家族や友達に言われて仕方なく謝られても、何も解決しない。
「帰っていいよ。」
すると、朱里ちゃんが目付きを変えて、立ち上がった。
「確かに、お爺ちゃんに言われて来ました。でも、私は仕方なく来たんじゃありませんっ。お爺ちゃんが、教えてくれたんです。他人の気持ちを考えられない者に学ぶ資格などない、いや、生きる資格などないと。」
三才児とは思えない流暢な話し方。
そういえばこの子、厳格な道場の娘だったような……。
「道場の娘として、私はもう保育園に通うことは出来ません。プライドを捨てるため、修行に出ます。本当に、すみませんでした……。」
機械みたいだ。
何かに動かされた、ロボットのような口調。
この子はその修行とやらに出て、変われるのだろうか。
心の籠った謝罪を、言えるようになるのだろうか。
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