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末っ子⑤
真綾は、再び朱里ちゃんを腕の中に閉じ込めた。
そして、自信なさげに呟いた。
「朱里ちゃん、まあちゃんが、友達じゃ駄目かな……。」
驚いたように顔を上げる朱里ちゃん。
「いい、の……? 私、真綾ちゃんに意地悪したのに……。」
「寧ろ、友達になってくれた方が嬉しい!」
弾けるような笑顔。
それに釣られるように、朱里ちゃんの口角も少しだけ上がった。
「明日からも、保育園来てくれる……?」
「お爺ちゃんに許し貰う、絶対に!」
「約束だよ?」
「うん、約束!」
小指を絡めて「指切りげんまん」なんて歌う二人を見ながら、私は立ち尽くしていた。
三才の背負う荷物は、こんなにも大きいのかと、絶句した。
「真綾ちゃんのお母さん。」
「えっ?」
突然目の前に現れるものだから、気の抜けた声が出てしまった。
「ごめんなさい。」
土下座をするわけでもなく、お爺ちゃんの教えを語るわけでもなく。
ただただ頭を下げて、「ごめんなさい」と謝った。
「顔、上げて?」
ゆっくりと私の目を見つめる澄んだ瞳。
辛いのは私の娘だけだと思っていた。
そりゃあ、いくら辛くても弱い者いじめなんてしてはいけないに決まってる。
でも、誰だって、何らかの悩みを抱えている。
その悩みを否定してまで、朱里ちゃんを傷付けたいとは思わない。
「もう、こんなことしないって、約束出来る?」
「はいっ……!」
「これからも、真綾のことよろしくね。」
「ありがとうございますっ……。」
その日、朱里ちゃんを家まで送り届け、お爺さんを説得した。
何度も朱里ちゃんに罵声を浴びせ、時には手を挙げていた。
でも、朱里ちゃんと真綾の熱意に負けたのか、一時間も経てば「好きにしろ」と家の奥に消えていった。
苛ついた後ろ姿を見ながら、それでも道場の師範かと三人で笑ってしまった。
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