僕は君の心に寄生したかった

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ここは何かの研究施設である。 詳しいことはよく知らないし、知る必要もない。 大学生の頃、夏休みの間の小遣い稼ぎにと倉庫整理から始めたバイトだったが、いつのまにかそこから5年の月日が経っていた。 その間に気まぐれで取った調理師免許のおかげか、私は今もここで調理師として働いている。 毎日朝と昼と晩の3回、決まった時間に決まったメニューを決まった量だけ作る。同僚はいない。厨房にはいつも私1人だ。 そして、私の料理を食べるのは人間じゃあない。 今朝私が食べたものよりも豪華な朝食を前に、目の前の生き物は背筋を伸ばして座り、尻尾を左右に振って喜んだ。 「ほら、ご飯をそっちに入れてやるからもっと後ろに下がりな」 トレイの上の料理をチラつかせて、下がるように手でジェスチャーをする。 するとガラス越しの生き物はハッハッと舌を出して、こちらから視線を外さないままお尻を15センチほど後ろにずらした。 「座ったままで横着するんじゃないよ。ちゃんと立って下がるんだ」 首を振り、NOというと、何を勘違いしたのかそいつは腹を見せて転がった。 …なんて馬鹿な生き物だろう。 呆れてため息をつくと、その生き物はやっと立ち上がって部屋の隅まで後ろに下がった。 「そう、それでいいんだ。毎日同じこと繰り返してんだからいい加減覚えなよ。本当にお前は馬鹿だね」 待てと声をかけて、小窓から食事をガラスの中に入れる。 きちんと窓の鍵を閉めたのを確認して、律儀に待てをする生き物を見た。 生き物はまだかまだかと、首を文字通り長くして前のめりになっている。 「よし。いいよ、召し上がれ」 言うや否や食事の皿に飛びつき、手で肉を掴んでムシャムシャ。スープに顔ごと突っ込んでゴクゴク。ソースのついた皿をペロペロ。 ーーー気持ち悪い。 食べ方が汚いのはもちろんだが、その知性のかけらも感じない姿に、私は酷い嫌悪感を覚える。 生き物は味のしなくなった皿から顔を上げて私を見た。目が合うと「ホッホッ」とよくわからない声をあげて、にこりと立派な牙を見せて笑う。 指や口の周りを長い舌で舐めまわる様子が不快で、眉間に皺がよる。 …ああ、と思う。 私はどうしようもなく、この生き物のことが大嫌いなのだ。
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