僕は君の心に寄生したかった

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私が食事係になったのは、あの生き物の目と腕がまだ2つずつしかなかった頃だ。 薬品の匂いが染み付いた部屋で、その生き物は死んだように眠っていた。 むしろ、死んでいるのだと思った。 けれどその生き物はガラス越しに私が近づくと、頭を少し持ち上げて深いブルーの瞳で私を強く睨んだ。威嚇ではない。ただの一瞥だ。動くものが自分に近づいたからただ見ただけなのだ。 私が部屋に入った瞬間から、きっとこの生き物はわかっていたのだろう。私がなんの力も権限も持たない無害な人間であるということを。 だからこの生き物は、そんな私に対して関心も警戒もなかったのだ。 それに反して、私はすごく緊張していた。心臓が耳の中でバクバクと脳に圧をかけてきて手が震える。覚束ない手つきで小窓に食事を入れると、スープが少しトレイの上に溢れてしまっていた。 生き物は差し出された食事を事務的に受け取り、匂いを嗅いで一口だけ口に含んで、それを口の中で転がしていた。 変な食べ方だと思ったが、後から聞けばそれはこの生き物の癖なのだという。 あまり好ましい食べ方ではなかったが、私に口出す権利はないということは弁えていた。 しばらくして、食べ終わった皿を回収する。 私は、この部屋に入る前からずっと不安で不安で仕方がなかった。なんせ誰かに自分の作ったものを食べてもらうなんてのは初めてだったのだ。 「…あ、あの」 だからつい、部屋の隅で小さくなるその生き物にこう聞いてしまった。 「おいしかった…ですか?」 自分の声が耳に届くよりも先に激しく後悔する。 答えられるわけがないのに、なんて愚かなことをしてしまったのだろうと強い自責の念に駆られた。 生き物は部屋の隅から動かずに頭をこちらに向け、そんな私の姿を今度はしっかりと瞳に捉えるとゆっくり数回瞬きを繰り返す。 それから、多分、少しだけ笑った。 そして喉元にある大きな傷跡を隠すように、首を竦めてから私に背を向ける。 私は途端に恥ずかしくなってしまって、足早に部屋を去ったのだ。 涙目になって厨房に戻ると、教授がにこやかに笑顔を貼り付けて待っていた。 私に軽く労いの言葉をかけてから一言、辞めたいか?と聞いた。 それに私はいいえと答える。 それならば自分がここで役に立つ人間だと証明してみなさいと、教授は透明な液体の入った袋を私に渡した。いったいそれが何なのか、私には知る必要はないそうだ。 私はただの食事係。 私の仕事は、あの生き物にこの液体を混ぜた食事を食べさせることだ。
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