赤いシーグラス

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 店長と会話を終えて、敬輔がバックヤードで着替えていると、厨房からアルバイトの女の子の声が聞こえている。常に笑い声が混じっているのが彼女たちの会話の特徴だ。  敬輔の退勤時間は六時で、学校が終わってから出勤する彼女たちは五時半からだ。少しの時間だけ一緒に働くのだが、敬輔は彼女たちとまったく話をしない。話しかけられても、返事をしないことが多い。  厨房で彼女たちが話している内容のほとんどは誰かに対しての陰口だ。その内容は敬輔に関することが多い。 「ねぇ聞いた? あいつ異動するらしいよ」 「えっ? まじラッキーじゃん!」 「まぁね。でもトイレ掃除とかアタシらがやんないといけなくなるんだよ? それも面倒だよね」 「あーそっか。でも、アイツ見てるとなんか腹立つんだよね。へらへらして返事もろくにしないし、先輩にもタメ口だし。そのくせ店長には贔屓(ひいき)されてるじゃん」 「店長の知り合いだったらしいから仕方ないじゃない? たぶん店長も迷惑してたんだよ」 「態度はでかいけど、なんだかんだ店長は優しいもんね」  聞き慣れている敬輔だが、それを聞いていると着替えが止まってしまう。彼女たちが店長のことを話し始めたので、ようやく着替えを終えて店を出た。
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