赤いシーグラス

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 翌日、敬輔はリュックをふくらませて、レストランにやってきた。  かなり重たそうなのに笑顔の敬輔を見て、アルバイトの女の子の二人が怪訝(けげん)な顔でヒソヒソと陰口を言っている。今日は土曜日だから、朝から彼女たちもいる。  敬輔がリュックから取り出したのは、シーグラスがいっぱいに入った紙袋だった。テーブルに置くときにドンッと思っていたより大きな音がしたため、自分でやったことなのに敬輔は眼を見開いて驚いていた。  その様子を彼女たちは好奇の眼で見ていたけれど、袋の中がなんなのか聞くことはしなかった。  気まずい雰囲気のバックヤードに店長がやってきた。  女の子の二人の「おはようございます」のあいさつには眼も合わせずに、「おう」と言うだけで返した。 「大量に持ってきてるな。なんだそれ?」  敬輔は紙袋いっぱいに入っているシーグラスに手を突っ込んで、ガサガサと探り始めた。そして取り出したのは赤いシーグラスだった。 「店長、これあげる」 「ん? ガラスのかけらか? 綺麗だけど、これを俺にくれるのか?」 「うん。赤は珍しいんだよ」  敬輔はシーグラスだと説明するのを忘れているが、敬輔の説明不足に店長は慣れてしまっている。 「そうか。ならこれは大事なもんだな。ありがとう。もらっとくよ」  店長はポケットに赤いシーグラスを入れながら、女子高生の二人を見た。二人はもう準備を済ませて厨房に行くところだった。彼女たちがスタッフルームから出るのを確認してから、店長は話し始める。 「昨日話したこと、お母さんに相談してみたか?」  敬輔は首を横に振った。敬輔の母から連絡がなかったから、そうだろうと予想はしていた。 「やっぱ嫌だったか……じゃあ無理しなくていいぞ。これからも敬輔にいてもらえるなら俺は助かるからな」  ふぅっと息をつこうとしたとき、敬輔が強く首を横に振った。  店長はしばらく言葉が出なかった。まさか敬輔がこんなにも明確に意思表示するとは思っていなかった。 店長は苦笑いをしながら言う。 「じゃあ……とりあえず俺からお母さんに話しておくよ。そうすれば相談もしてくれるだろ。とにかくお母さんときちんと話し合うことだ。分かったか?」  元気よくうなずいた敬輔は紙袋をリュックに戻して、エプロンをつけて、食器洗い場へ向かった。
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