第4章 魔神の血

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 七都を背負ったカディナは、蝶の紋章が刻まれた扉の前に立った。 「あ、やっと着いた」  カディナがその館の扉を叩こうとすると、扉はさっと開いた。  中から、一人の少女――ゼフィーアが、背後に猫たちを従えて姿を現す。  灰色のふわりとしたドレスに赤の縁取りのある漆黒の上着。緋色の長い髪が肩を覆い、複雑な細工の金の飾りが両耳に輝く。  ゼフィーアは緑色の鋭い目で、自分よりも背の高いカディナを見つめた。 (相変わらず、怖いくらいに妖しい。この人、この魔神族の子より迫力あるんじゃないかな)  カディナは、心の中で思う。 (この時間にもう起きてるなんて。魔法使いってのは早起きなのかしら。それか、これから寝るところなのかも……) 「こ、こんばんは。いや、お早うございます、かな。門番に頼まれて、この辺を荒らしていた下級魔神族を退治しに行ったんだけどね」  カディナは、ゼフィーアに言った。 「それは、ご苦労さまでした」  ゼフィーアが、そっけなく言う。 「ほら、おみやげ」  カディナは、七都を背中からドサリと下ろす。  ゼフィーアは、顔色を変えた。 「ナナトさま!?」 「下級魔神族に食われてた。早く手当てしてあげたほうがいいんじゃない?」 「セレウス!!」  ゼフィーアが叫ぶ。そして彼女は、七都の胸を見下ろした。 「ああ、ひどい……」 「どうされました、姉上?」  玄関のホールの奥から、セレウスが歩いてくる。  彼もまた、ぐったりしている七都を見つけて、顔を引きつらせた。 「ナナトさまっ? いったい……」 「セレウス。お部屋にお運びして」  ゼフィーアが弟に言った。  セレウスは、七都を抱え上げる。  七都を抱えたセレウスがホールに消えると、ゼフィーアはカディナに向き直った。 「あなたには感謝しなければ。あの方を助けて下さったのですね」 「魔神狩人としては、失格だけどね」  カディナは呟く。  ゼフィーアは、妖艶に微笑んだ。 「あなたの腕を治しておいて、本当によかったですわ。どうぞ、館の中へ」 「今回は、すんなり入れてくれるの」 「歓迎しますよ。どうぞお入りになって。ゆっくりおくつろぎ下さいな。でもその剣は、この館に滞在される間は、従来通り預からせていただきますよ」  ゼフィーアは言って、白い手をカディナに向かって差し出す。  カディナはエヴァンレットの剣を鞘ごと腰からはずして、ゼフィーアに渡した。 「抜け目ないね」 「そんなものをこの館で振り回されては、たまりませんもの。やはり、あなたは魔神狩人。気をつけなければなりませんわ」  それからゼフィーアは、カディナのかなり後方でおとなしく座って控えている黒い犬に、ちらりと目をやった。 「残念ながら、犬は屋敷の中には入れません。猫たちが怖がりますから。ここに繋いでおいていただけますか? それとも、馬小屋にでも。けれど、馬も怖がるかもしれませんね。なにしろ、魔神狩人の犬ですもの」 「わかったよ。取りあえずは、ここに繋いどく。でも、ずっとこういうところに置いとくわけにもいかないから、あとで宿屋に連れて行く。ならいいでしょ?」 「よろしいですわ」  ゼフィーアが、にっこりと微笑んだ。  カディナが屋敷の中に入ると、猫たちが尻尾を高く上げて歓迎し、競うようにカディナの膝に頬をすりつけた。
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