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セレウスは七都を抱えて、ホールを横切った。
七都は、細く目を開ける。
「ああ、セレウスだ。また会えたね。でも、いきなりお姫様だっこなんだ」
「また、わけのわからないことをおっしゃる」
セレウスは、ゼフィーアと同じ緑色の目で七都を見つめた。そして、七都を抱きかかえる腕に、さらに力をこめる。
彼は前回七都を案内した部屋のドアを開け、そこに置かれてあったベッドに七都を横たえた。
「ここ、前に来たときは、ベッドなんてなかったよね……」
七都は、呟く。
「少し模様替えをしました。あなたがまたいらっしゃると思ったので。あなたのお部屋としてお使い下さい」
「ありがとう……」
部屋にはベッドと棚、小さなテーブル、姿見などが追加されていた。テーブルの上にはカトゥースの花がいけられている。
猫たちが数匹、開け放されたドアから入ってきて、ベッドの周りを歩き回った。
セレウスはベッドのそばに屈んで、七都の頬にそっと手を触れ、やさしく撫でた。
石畳に倒れていたせいで、七都の顔には、土がこびりついている。セレウスは、それを取ろうとしてくれているようだった。
あの下級魔神族の冷たい手とは対照的な、熱い手。その体温に触れた途端、七都は、体の内部から不意に突き上がってくるある衝動を感じて、身震いする。
カディナに背負われていたときは、たぶんずっと意識の奥底に押さえ込んでいた、その衝動。この前ここに来たとき、ベッドのユードと対峙して感じた、あの衝動だった。
「セレウス。私にさわらないで」
七都が言うと、セレウスは少なからずショックを受けた様子で、七都の顔から手をのけた。
「申し訳ありません。苦しいのですよね。すぐに姉上が参ります」
「違う。私に近づいたら……私、あなたを襲うかもしれない」
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