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朝食を済ませたあと、七都は高校の制服に着替えた。
紺と白のセーラー服は、夏の朝によく映え、涼しげだった。
だが、それは見た目だけで、実際着ている本人は結構暑かったりする。特に襟の部分は布が何枚も重なっているので、かなりきつい。そこだけ蒸れて、汗でべったりしてしまう。
「制服で行くの?」
果林さんが、ちょっとあきれ気味に言う。
「うん。だって、私服で行ったら完璧に浮いちゃうでしょ。ビジネス街だし」
「まあ、その制服にはファンも多いから、そういう意味でも正解かもね」
七都は、ソファの上に無造作に置かれている書類に目を留めた。
学校のパンフレットだ。ケーキにパン。野菜の料理。おいしそうな写真が、見映えよいレイアウトで並んでいる。
「専門学校? 果林さん、行くの?」
「もう料理教室は行き尽くしたから。今度は本格的に学校に行ってみようかと思って。コーヒーのことも勉強するから、ナナちゃんにおいしいコーヒーを入れてあげるね。学費は結婚前にためた貯金があるから大丈夫よ。家事もおろそかにはしないから。央人さんにはまだ言ってないけど、反対はされないと思うの」
「うん。期待してるよ。頑張って。私も協力する」
でも。
これってやっぱり、私が向こう側に行ったことと関係ないわけないよね。
七都は、後ろめたく思う。
果林さんは、今までの週一回だけの料理教室ではなく、ほぼ毎日通わなければならない専門学校に行くことを突然決めてしまった。
それは、目をそらすため。ごまかすため。今のこの奇妙で受け入れがたい状況から。
たぶんそうなのだ。
「央人さんには、電話しとくから。お昼ごはんは、ナナちゃんが持って行ってくれるって」
果林さんに見送られ、七都は二人分のお弁当をさげて、家を出た。
お弁当はずしりと重く、やっぱりその重みは、果林さんの愛情もたっぷり入っているせいもあるのだろうと、七都は思った。
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