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休暇
初夏の登山は、つい足もはやまってしまう。
登山といえども、ちゃんと装備を整えていれば、
日帰りで登れる山だ。
それでも所々に鎖を伝って登らなければならない所や
靴の幅くらいしかない、いつ作られたかわからぬ木の板で崖を巡る難所もあり
頂上まで極めるのは、ハイキング気分の者には無理だ。
急な登山道を昇り切ると、鬱蒼とした木々が不意に途切れ
そこから空を見上げると、遠く積乱雲が湧いていた。
眼下に小さく麓の村の集落がかたまっている。
僕は近くの木に寄り掛かり、息を整えた。
懐かしい森の香り。
都会にでて働きアリのように電車に詰め込まれて、吐き出され
灰色のビルに吸い込まれてゆく。
そして時間が来れば、またビルから吐き出され、
電車に詰め込まれて吐き出される。
毎日毎日その同じ繰り返し。
生活のために。
金のために。
それでは生きているとはとても言えない。
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