結末

2/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
僕は疲れているのになんとも寝付かれず、玉砂利(たまじゃり)の敷き詰めた(やしろ)の庭を歩いた。 一の鳥居をくぐり、脇道に入ると不意に肩を掴まれた。 ワシカグチだった。 「(やしろ)を離れると、またあいつに悪さをされますよ。」 そう言ったとたん、目の前にるりちゃんが現れた。 「お館さま、もう邪魔しないでよ!」 僕はずいっと前に出た。 「るりちゃん、ありがとう!」 ワシカグチとるりちゃんが同時にえっ?という顔で僕を見つめる。 「僕は迷っていて、すごく不安だったんだ。 るりちゃんがいてくれてすごく安心できたんだ。ありがとう!」 すっとるりちゃんの影が薄くなった。 るりちゃんが悲鳴を上げた。 「それから霧の道でずっと手を繋いでいてくれただろう? 僕は崖から落ちないですんだよ、ありがとう!」 るりちゃんの姿がだんだん薄れて行く。 「やめてよ!やめて!私はまだここにいたいの!」 僕は(ささや)くようにつぶやいた。 「るりちゃん、僕を殺さないでくれて、助けてくれてありがとうね。 もう充分だよ。今度は幸せなところに生まれておいで。」 耳を(ふさ)いで叫んでいたるりちゃんは、 もう霧のように薄れながら僕の方をみた。 手をゆっくり胸の前で合わせると、最後にちょっぴり微笑んだ。 口が動いて(かす)かな声が風に乗って聞こえた。 「ばかね・・。ありがと・・。」 そしてふっと姿が消えた。 良い香りに振り向くと、大輪の牡丹(ぼたん)のような美しい赤い花が 鳥居の内側で風に揺れていた。 「()きましたね・・。」 僕がつぶやくと、ワシカグチが深く頭を下げた。 「ありがとう・・ございました。 これで私もようやく()けます。」 「長い間、お疲れ様でした。 どうぞあちらの世界では安らかにお過ごしください。」 ワシカグチはにっこり微笑んで、もう一度深く頭を下げた。 僕は再び社に戻り、布団に(もぐ)り込むと 朝までぐっすり眠った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!