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僕は疲れているのになんとも寝付かれず、玉砂利の敷き詰めた社の庭を歩いた。
一の鳥居をくぐり、脇道に入ると不意に肩を掴まれた。
ワシカグチだった。
「社を離れると、またあいつに悪さをされますよ。」
そう言ったとたん、目の前にるりちゃんが現れた。
「お館さま、もう邪魔しないでよ!」
僕はずいっと前に出た。
「るりちゃん、ありがとう!」
ワシカグチとるりちゃんが同時にえっ?という顔で僕を見つめる。
「僕は迷っていて、すごく不安だったんだ。
るりちゃんがいてくれてすごく安心できたんだ。ありがとう!」
すっとるりちゃんの影が薄くなった。
るりちゃんが悲鳴を上げた。
「それから霧の道でずっと手を繋いでいてくれただろう?
僕は崖から落ちないですんだよ、ありがとう!」
るりちゃんの姿がだんだん薄れて行く。
「やめてよ!やめて!私はまだここにいたいの!」
僕は囁くようにつぶやいた。
「るりちゃん、僕を殺さないでくれて、助けてくれてありがとうね。
もう充分だよ。今度は幸せなところに生まれておいで。」
耳を塞いで叫んでいたるりちゃんは、
もう霧のように薄れながら僕の方をみた。
手をゆっくり胸の前で合わせると、最後にちょっぴり微笑んだ。
口が動いて微かな声が風に乗って聞こえた。
「ばかね・・。ありがと・・。」
そしてふっと姿が消えた。
良い香りに振り向くと、大輪の牡丹のような美しい赤い花が
鳥居の内側で風に揺れていた。
「逝きましたね・・。」
僕がつぶやくと、ワシカグチが深く頭を下げた。
「ありがとう・・ございました。
これで私もようやく逝けます。」
「長い間、お疲れ様でした。
どうぞあちらの世界では安らかにお過ごしください。」
ワシカグチはにっこり微笑んで、もう一度深く頭を下げた。
僕は再び社に戻り、布団に潜り込むと
朝までぐっすり眠った。
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