少女

1/3
前へ
/15ページ
次へ

少女

その時くすくすと押し殺したような笑い声が聞こえた。 僕ははっと周りを見渡した。 ちょうどかくれんぼで、鬼に見つけてほしいような怖いような そんな子供の笑い声だ。 「こんなところに・・子供が?」 直ぐ近くの大きな木の裏側で、 お祭りの時に小さな子が着る浴衣(ゆかた)の、六尺帯(ろくしゃくおび)のふわふわした赤が揺れている。 「誰か‥いるのかい?」 僕が声をかけると、またくすくす笑いが聞こえて 蝶々結びの赤が木の後ろにみえなくなった。 僕がそっと木に近付いてゆくと、帯が揺れた反対側から 五歳くらいの女の子の顔が覗いた。 おかっぱの髪がさらさらと動いている。 「みつけた。」 僕が言うと、女の子はきゃっきゃっと笑いながら 僕の方に来て手を引っ張った。 「見つかっちゃったぁ。」 女の子は楽しそうに笑いながら言った。 「今度は私が鬼だね!」 「待って待って。君はひとりかい?」 僕は慌てて尋ねた。 「ここで何をしているの?」 「かくれんぼ。」 女の子は頓着(とんちゃく)のない顔で言う。 「おかあさんは?」 僕が聞いても、彼女はにこにこと見つめるばかりだ。 ちょうど夏祭りの盆踊りの最中にやって来たみたいだ。 小さな足に下駄を履いている。 その鼻緒(はなお)も、帯とおんなじ赤色だった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加