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「道に迷ってしまったんだ。お家は近くなのかな?
連れて行ってくれるかい?」
「いいよ!」
女の子は無邪気な笑顔のまま僕の手をひいた。
「こっちこっち。」
女の子は足早に僕を引っ張って先に連れて行く。
たちまち赤い鳥居が後ろに遠ざかり、また道は霧に包まれた。
「ね、君のお名前は何というんだい?」
まるで霧に手をひかれているような気になって、
僕は前の女の子に声をかけた。
女の子の声が霧の向こうで聞こえる。
「るりーっ!」女の子が歌うように答えた。
「るりちゃん、独りで遊んでいたのかい?」
「おにいちゃんを見てたの。」
「お兄ちゃん?僕の事?」
るりちゃんはうふふふ、と笑った。
「だってここに人が来ることないんだもの。」
え?
そんなにマイナーな山ではない。
山頂まで登る『もの好き』は確かに少ないが、
山好きの奴らは、足慣らしによく来るところだ。
こっちの道には来ない・・ということなのかな・・。
おぼつかない白い足元を気にしながら、僕は進んでいた。
ふいにるりちゃんの手が離れた。
思わずあっと声が漏れる。
「大丈夫かい?るりちゃん?」
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