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ワシカグチ
僕は慌てて立ち上がって、霧の先を見つめた。
「今・・小さな子が・・。おーい!るりちゃん!大丈夫かーいっ!」
大きな声で霧の先に呼びかけた。
応えはない。
男はそんな僕をしばらく見つめると、ため息を吐いた。
「あなた、あいつにからかわれたのですよ。」
「あ、あいつ?」
「この山に棲む、昔からいる奴です。
僕はこの先の神社のワシカグチです。
どうぞいらして下さい。」
僕はワシカグチについて、来た道を戻った。
ワシカグチの周りには不思議と霧は薄く、足元までよく見えた。
道は一本道だが、直ぐ脇は深い崖になっており、
足を踏み外していたら・・と思うと血の気が引いた。
「霧が深まってきたので、おかしいと思って見回っていました。」
ワシカグチが低い響く声で、振り向きもせずに言う。
思ったより早く、赤い鳥居が見えてきた。
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