宮司さんの話

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宮司さんの話

この山の奥にはかつて、(いくさ)を落ちのびた武将の一族が住んでいたそうです。 為政者(いせいしゃ)に見つかれば、一族郎党(いちぞくろうとう)みな打ち首になるほどの武将だったとのこと。 しかしこの山が要塞(ようさい)になり、 この一族は誰に知られることもなく、ここに住み続けていました。 そう、この(やしろ)はその集落の中心だったと伝わっています。 ある時、その一族は異変に気付きます。 逃げのびて来た武将とその家族、 家来衆合わせて三十人ほどだったそうですが 誰一人、年を取らなくなっていたのです。 最初におかしいと思ったのは、子供達の外見でした。 その時の子供は三人ほどだったそうですが、誰一人成長しない。 赤子は赤子のままで、少女も少しも大人にならない。 最初はこれは天の配慮(はいりょ)か仏の加護(かご)かと、 皆不老不死を喜んだそうですが 実はこれは恐ろしい事だと、だんだん気づき始めたのです。 何十年経っても、誰も変わらない、誰も死なない 子供は子供のまま。 だが生きてゆかねばならない。 段々気がおかしくなって、自害しようとしたものもあったようですが、 傷が癒えるまでの死ぬほどの痛みはあれど、 死ぬことは叶わなかったと言います。 百年ほどたったある日、この武将は(やしろ)を建て、一心不乱に神に祈ります。 我らは世の(ことわり)から(はず)れてしまった。 どうか元に戻してくれ。我らに安らかな死を与えたまえ、と。
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