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 来週の月曜からお盆休みが始まるので玲奈の会社もしばらく休みだ。いや、正確に言えば今日からか。失念していた。  満員につき門前払いをくらうとは考えてなかった。十数分の時間を無駄にし、二人は再び夜空の下に放り出された。 「で、どうするんだよ?」  まるで玲奈の失態だとでも言わんばかりに拓海が言った。玲奈は黙ってスマートフォンをタップする。そんなことはこちらが聞きたいくらいだった。駅近くのホテルなんて他に利用したことは無いから分からない。検索すればいくつもあるけど、空いているかどうかを一つ々々確認するのは大変そうだ。手当たり次第に特攻した方が早いとも思われた。  一粒の雫が画面を濡らした。ついに降り出したかと思ううちに、雨脚はどんどん強くなる。通り雨とも思われたが、すぐに止む保証も無かった。状況はどんどん悪くなる。 「ホテル、何か見つかった?」 「全然ダメ。っていうかそっちも探してよ。このままじゃ雨のなか野宿することになるよ」 「連休を風邪で潰すのはいやだなあ」  そう言うと拓海は歩き出した。玲奈は慌てて後を追った。 「ちょっと、何処に行くの」 「とりあえず雨のしのげそうなところ」  大股でずんずん進んでいく。ヒールを履いた玲奈のことなど気にもとめない。なんて勝手なんだろうと思ったものの、ここでへそを曲げられては困ってしまう。玲奈は小走りでなんとかついて行き、高架下を通り過ぎた。そこは駅の西側である。  玲奈の心臓がドキリと跳ねた。駅西と言えば家電量販店に飲食店に同人ショップ、色々な店舗が立ち並ぶが、道を一本入った場所には『大人のお店』も点在している。ピンクのネオンの輝く場所にあるという二人が雨のしのげそうなところ、思い当たるのはラブホテルだった。  互いに気が無いというのは、玲奈も十分わかっている。行ったところで、本当に雨をしのぐ程度で退室することになるだろう。そうは分かっているのだが、雰囲気に流されて万が一の可能性を引き当てる可能性も否定できない。  脈はどんどん速くなった。それは小走りしているからだけではないだろう。  玲奈は頭の中で、味気ない下着を履いてきたことを後悔した。
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