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 玲奈はいちど柳橋方面へ行き服装を整えた後、また駅西にとんぼ返り。信哉の指定したラブホは先ほどまでいた漫画喫茶のすぐ近く。念のため拓海の目がありはしないか警戒した。  カウンターで店の名前を言って中へ入る。部屋の前に到着すると、玲奈は薄い外套を脱ぎ去った。かわいらしいピンク色の学生服の姿になった。このコスプレ衣装を着ることが今回のオプションであるらしい。本当なら部屋に入って客の前で生着替えをすれば良いのだが、玲奈はいつも着替えてから客に対面することにしている。こちらの方が初見でのインパクトが強いのだ。五年間のデリヘル経験で編み出した知恵だった。  ところで、この衣装には見覚えがあった。それは拓海の見つめていた漫画の女だ。何の因果かと玲奈は思った。が、それでもこの仕事を拒むことはしなかった。  赤い糸がどれだけ強いか分からない。しかしこれから玲奈は知らない男に股を開く。拓海との見えざる縁を断ち切るにこれ以上効果的な手は無いだろう。それにもしかすれば、この出会いをきっかけに新しい運命の糸が結ばれることになるかもしれない。何より今日の客は『お泊りコース』、これで朝までしのぐことも可能なのだ。  このドアの先に皆が満足できる未来がある、そう考えると玲奈の心に不思議な情熱が沸き上がった。  深呼吸して、ノックを三回。ドアが開き、玲奈は飛び切りの笑顔を客に向けた。  夜の名古屋に驚愕の声が木霊した。
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