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妄想コンテスト「赤」
画家の瑞樹茜(みずきあかね)。
その画家の個展は、ふとした時に、街中に現れる。空きテナントが一夜で、展示場会場へと変貌する。絵が力を持つ、そういう事が確かにあるのだと、その個展は確かに示した。突発的に現れる瑞樹茜の個展。規模は小さく、入場料を取らない。足早で回れば10分もかからずに終えてしまう。日常の中にふと現れる個展は、まるで一度目に止まればいいとでも言うように、本当にその日限りで幻のように消える。そしてそれは、確かに十分なのだろう。
展示される絵は青や緑を主題とした絵ばかりだ。薄い青と緑は清々しい空気を感じさせ、重い青と緑が濡れる小さな花の健気さを描き出す。
良い、という言葉で褒めそやされることは無かったが、個展に来た人達は瑞樹茜の画に何かしら思いを得て共有した。下書きから産まれる構図と、そこに乗る色がとても良く合うのだと、専門家でもない人たちが口々に評する。
個展にはいつも一人の若い女が、個展会場の案内に立つ。
それ以外に人は居ない。
ある人は言う。彼女こそが瑞樹茜だと。また別の人は言う。彼女はただの雇われで、本物の瑞樹茜は別に居るのだと。そんな話が広がっていく内、小さなネット記事が書かれ、更に拡散は進んだ。記事でも、個展会場に立つ案内の女性が瑞樹茜本人であるか尋ねているが、綺麗に否定されて終わっている。
突然に現れる、正体が曖昧な画家の個展。徐々に世間が瑞樹茜という画家の絵に目を向け始めていた。
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