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街中にある空きテナント。その入口に質素な看板が置かれている。記されているのは『個展・瑞樹茜/茜瑞樹』の文字だった。
一対の絵が、テナントの中に並ぶ。同じ構図の絵画はしかし、両極の色を呈している。
一枚は濃厚な自然を感じさせる、青と緑の世界。対になるもう一つは、見る人の心を根源からかき乱すような不安を煽る、赤の世界。
既に個展は開いている。これまでの活動もあって、人の入りは悪くない。もっとも、世間で言われているものとは、全く別の絵が並んでいる個展がどのように受け止められているか、その結論が出るにはまだしばらくの時間を要するだろう。
赤の作品を食い入るように見る者もいれば、目を背ける者もいる。
それぞれの反応を見て、玲子は手応えを感じた。だが、ここはまだ本当の入り口だ。この展示の最後の反応にこそを、玲子の関心は向いていた。
「本日の展示は特別なーー本当に特別なものとなっております。どうぞ、ゆっくりと御覧ください」
笑みを浮かべて玲子が、深く、深く、頭を下げる。
案内の彼女が人を受け入れる位置からは伺うことのできない、展示の最奥。
そこに一枚の絵画が展示されている。それはやり直しの一枚だ。
瑞樹花灯の絵に、茜一葉が赤を載せた一枚。
花灯と一葉が再開した時に描かれた紫陽花の絵。
本当の瑞樹茜の絵が、飾られている。
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