決意

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決意

「えーと…、確かここから港へは…、」 あれから、イリスは情報屋を使って例の海賊船のルートを辿った。その航路から推測するに海賊船はある港に立ち寄る筈だ。イリスはその港に先回りをすることにして海賊船に潜入することにした。そう。初めからイリスは海賊船に乗り込む気だったのだ。 ―危険なのは分かっている。でも、姉を見つけるためなら…、私は…、どんな事だってしてみせる! イリスは海図を広げて今後の計画を立てることにした。 「…よし。後は…、」 イリスは目印をつけて、確認をした。身支度もしようと準備をしようとするが…、 「イリス。いるのか?」 扉を叩かれ、イリスはぎくりとした。慌てて海図をしまい、扉を開いた。 「ライオネル。どうしたの?」 「ああ。実は…、君に話があるんだ。」 「話?私に?」 ランドルフは頷いた。イリスはライオネルと向かい合って座った。彼はイリスが淹れた紅茶を一口飲むと、 「これを…、見て欲しい。」 渡されたのは複数の冊子だった。中を開くと、ある人物たちのそれぞれの肖像画と経歴が書かれている。どれも海軍に属する優秀な軍人の卵の青年ばかりだ。年頃もイリスと変わらない。 「あの、この方達は…?」 よく分からずにライオネルに問いかければ、 「君に…、縁談がきているんだ。その肖像画の男達は君の縁談相手だ。」 「縁談!?」 予想外の事態にイリスは思わず叫んだ。 「そうだ。」 「ま、待ってください…。え、縁談だなんて…、そんな…。急にそんな事言われても…、」 「本当は以前から打診があったんだ。ほら、以前に軍主催のパーティーやお祭りに連れてっただろう?それに、時々、職場に差し入れを持ってきてくれたり、わたしが忘れた書類や弁当を持ってきてくれたりもしただろう?」 「そ、そうですけど…、それと何の関係が?」 「君を見かけた若い軍人の何人かが君を気に入ったらしくてね。紹介してくれと頼まれてたんだ。今までは全部断っていたんだよ。でも、君もそろそろ結婚を考える年齢だ。これを機会に君は君の幸せを掴んでもいいんじゃないのかな?」 「で、でも…、私は…!」 「イリス。君ももう大人なんだ。君の姉は恐らく…、生きてはいない。辛いかもしれないが現実を受け止めることも大切だ。それを受け止めた上でこの先の人生を生きていくんだ。」 「私は…、」 イリスは唇を噛んで俯いた。 「とりあえず、会うだけでも会ってみろ。どの相手も将来を約束された有望株だ。周囲からの評判もいい。返事は実際に会って話してみてから決めるといい。」 ライオネルはイリスの頭をぽんぽんと撫でて、部屋を出て行った。彼が立ち去った後、イリスはぽつりと呟いた。 「ごめんなさい…。ライオネル…。」 その夜、イリスは鏡台の前で髪をブラシで梳かしていた。さらり、とした感触がブラシを伝う。赤胴色の髪…。この髪が原因でよく男の子にはからかわれたが母や姉はこの髪色を褒めてくれた。けれど、この髪とも…、もうすぐお別れしなければならない。イリスは鋏を手に取った。姉を捜す為に海賊船に乗り込む。その為には、男装をする必要があった。海賊に女だと知られればどんな危険な目に遭わされるか分からないのだから。イリスは意を決した。髪を束ねて鋏を当てる。シャキン、と音と同時に髪の残骸が床に落ちた。 次の日、イリスは姿を消した。謝罪と姉を捜しに行くという文が書かれた一枚の手紙と切った髪の束を残して。
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