腕輪

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腕輪

「今日は船員達にお前を紹介する。」 シリウスはそうイリスに言った。 「紹介…?」 「牽制の為にも必要だ。俺専属の世話係として奴らに周知しておけばそう簡単には手出しはしないだろう。船員は問題ないだろうが…、船長と幹部には気をつけろ。あいつら…、特に船長はこの船では絶対的な存在だ。この船で生き残りたければ船長には決して逆らうな。」 「はい…。」 イリスは噂でしかブラッディパンサー号の事を知らない。アルマから噂で幹部がタイプの違った美形揃いだということだけは知っている。そして、船長は残酷非道と…。イリスは船長と聞いて姉を攫った海賊の姿を思い起こす。あの熊のように大きな威圧感のある男…。あの男のようにその船長も…。イリスはギュッと胸の前で手を握りしめる。 「くれぐれも女だとバレないようにしろ。幹部の中には無類の女好きもいる。船長も女と見れば容赦がない。」 「え…、」 イリスは不安げにシリウスを見上げた。 「安全に過ごしたければきちんと男らしく振るまうことだ。…お前の男装は分かりやすい。十分に気をつけろ。」 イリスは俯いた。ちゃんとやっていけるのだろうか。そんなイリスにシリウスは溜息を吐くと、 「イリス。手を出せ。」 「え…?」 「早くしろ。主人を待たせるな。」 シリウスに促され、おずおずとイリスは手を差し出した。すると、彼はイリスの手首に腕輪を嵌め込んだ。銀製でできた青い石が嵌め込まれた腕輪だ。周りには繊細な細工が施され、異国風な印象を与える。イリスは腕輪をキョトンと見つめた。 「首輪代わりだ。外すなよ。」 「はい!?」 イリスはぎょっとした。首輪って…、それではまるで…、 「まあ…、外そうにもそれは特殊な細工がされている。俺でないと外せないがな。」 「ええっ!?」 イリスは慌てて腕輪を外そうと試みる。が、全然外せない。シリウスは戸惑うイリスの腕を掴み、 「これは俺の所有物の証だ。イリス。忘れるな。これがある限り、お前は俺の奴隷だ。」 少しでもいい人なのかもしれないと思った自分が間違いだったとイリスは思った。やっぱり、彼は海賊…。血も涙もない情の欠片もない男なのだ。 ―私は…、奴隷なんかじゃない。心を持った人間だ…。 だから、心までも支配はさせない。私の心は私だけのものなのだから…。
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