捕虜達の末路

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捕虜達の末路

イリスはフッと目を覚ました。目を擦りながら起き上がる。 「あれ…?私、確か…、」 突然、船が襲われ、戦闘が始まり、イリスは部屋に戻る最中に気を失ってしまったみたいだ。人が殺し合う姿を目の当たりにし、幹部達の表情が頭に焼き付いて離れない。あれは正当防衛というよりも純粋に殺人行為を楽しんでいるかのようだった。戦闘中であるというのに彼らは笑っていたのだ。血を浴び、狂気的に笑うその姿は恐ろしく、同じ人間とは思えなかった。イリスは彼らが海賊であるのだと実感せざるをえなかった。 「シリウス様…?」 そこでイリスは今更ながらシリウスがいないことに気が付いた。どこに行ったのだろうか?彼は無事なのだろうか。もしかして、あの襲撃で何かあったのだろうか。イリスは慌ててシリウスを捜しに部屋を出て行った。いつの間にか騒ぎは収まっている。あれだけ剣と剣がぶつかりあう音や悲鳴、銃声が激しかったのに。もう終わったのだろうか?イリスはそっと辺りを窺いながらゆっくりと慎重に歩を進める。甲板を覗くと、そこには海賊達がいた。何人かは負傷している。血を流し、痛ましい姿にイリスは眉根を寄せた。ふと、負傷者達を手当てしている男がいた。シリウスだ。イリスはほっとした。無事だったのだと分かり、彼に駆け寄ろうとしたが…、どこからか人を殴ったり、蹴ったりする音が聞こえた。それと同時に呻き声も聞こえる。イリスは何事かと音のする方向に足を向けた。見れば、甲板の端の方でジャミールが縄で縛られた捕虜らしき人達に容赦なく暴力を振るっていた。顔や腹を殴り、背中を踏みつけたり、頭を鷲掴みにして力を籠めたり、顎を蹴りつけたりと見るも堪えない光景だ。捕虜の人達の中には顔や全身が血塗れの者、気絶したり、骨が折れた様な音をして悲鳴を上げた者や殴られて歯が欠けている者までいる。イリスは口を手で覆った。 「…で?話す気になったか?手前らの目的はなんだ。」 「…。」 ジャミールが一度手を止めたのを見て、細身の剣を手にしたグレンは捕虜達に尋問した。グレンが質問するが誰も答えようとしない。グレンははあ、と溜息を吐いた。 「あーあ…。面倒臭いなあ…。」 彼はトントンと剣で床を軽く弾いた。 「なあ…。ミハイル。お前の精神魔法でちゃっちゃっと聞き出しちまえよ。」 グレンは少し離れた所で分厚い本を読んでいるミハイルに言った。 「すみませんが先程の戦闘で些か力を使いすぎました。回復するのには時間がかかりそうです。あれは、非常に集中力がいるので今の私には無理です。」 「はあ?手前、ピンピンしているじゃねえか!怪我一つしてねえ癖に。」 「そう見えるだけで実際は今にも倒れそうな程の疲労感です。」 しれっと言うがミハイルは我関せずと言った感じで本を読み続けた。グレンは舌打ちをした。 「チッ!俺…、本当は女がよかったんだけど…、しょうがないかあ。」 グレンは残念そうに溜息を吐いた。 「やるの?グレン。」 「しょうがねえだろ。船長は今、具合が悪くて寝込んでんだからさあ。」 木箱の上に乗ったアロイスが足をブラブラさせながらグレンに聞くと、グレンは面倒臭そうに言った。 「おいおい…。こっちまで飛ばすなよ。今、やっと刃を磨き終わった所なんだから。」 彼らより少し離れた所でデリックは鉤爪の刃を手入れしながらそう言った。 「ああ。はいはい。分かったよ。」 グレンは適当な返事をして捕虜達に向き直った。 「…早く吐いておけばまだよかったのにな。」 ジャミールはそれだけ言うと、グレンの後ろに下がった。すると、グレンは細身の剣をしまった。何をする気かとイリスがハラハラしながら見守っていると、グレンは唐突に捕虜の一人の頭を掴むと、躊躇なく指を眼窩に突き刺した。 「ぎい、やああああああ!」 イリスはヒッ…!と悲鳴を上げた。しかし、その声は捕虜の悲鳴で掻き消される。グレンは捕虜の悲鳴を聞いても指は抜かずに頭を掴んだままぐりぐり、と指を上下に回した。 「悪く思うなよ。俺だってこんな事したくないんだけどさあ…。お仕置きはしっかりしないと。なあ?」 グレンはそう言いながら、敵を嬲った。先程よりも悲鳴を上げている。それにグレンはスッと目を細めると、 「あーあ。どうせなら女の甘い声と懇願する叫び声を聞きたかったんだけど…、野郎の声を聞いてもそそらねえや。…うるさいし。」 そのままグレンは捕虜を突き放した。そのまま仰向けに倒れる男には既に目も暮れずにグレンは残りの捕虜に目を向ける。 「で?…お前らの目的は船長か?それとも、ただの略奪目的か?」 「ひっ…!」 グレンの言葉に捕虜達は戦慄いた。グレンは口角を上げて微笑んだ。 「俺さあ…、あまり気が長くはないんだよね。…あんまり、勿体ぶると…、俺何するか分かんないよ?」 「ッ…、お、俺達は…、ただ頼まれただけだ!」 「へえ。誰に?」 にこりとグレンは笑って近づいた。イリスは後ずさった。すると、不意に腕を掴まれた。ハッとして見上げればそこにはシリウスが立っていた。 「これ以上は…、見るな。お前は見ない方がいい。」 「あ…、」 グイ、とやや強引に腕を引かれ、元来た道を引き返される。イリスはあの捕虜達がどうなるのか気になり、背後を振り返ろうとするが 「振り返るな。…そのまま、歩け。」 「で、でも…!」 シリウスがイリスの肩を押してそのまま前に押し出した。イリスがシリウスに何かを言い返す前に、背後で複数の悲鳴が聞こえた。悲鳴というよりはまるで断末魔の叫び…。後ろで何が起きているのか…。イリスは気になったがそれは知ってはいけない気がした。グッと唇を噛み締めてイリスはシリウスの言う通りに振り返らずにそのまま部屋に戻った。
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