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ここは、宇宙に植え付けられた、サツマイモの一種です。光を通さない、真っ暗な空間に、ぽたっ、ぽたっと垂れる、水の一瞬の姿。あの伸び切った、水の一瞬の姿が、赤々とここにあります。充血した水です。しかし、有り体に言って、これはサツマイモだと説明する方が、より簡潔です。土に眠るサツマイモを想像してみてください。もうそれで、この世界の説明は終わりです。
「おぅぅぉぉーーーーーーいぃ」
この「惑星・サツマイモ」に、四角い穴が開いています。そこから身を乗り出して、下を覗き込んでいるのは、これもまた、体を真っ赤に染め上げた、小鬼のような坊主です。黒いツンツンの髪に隠れた、その顔も、ムラのない唐紅色です。赤鬼というと、幼稚園や保育園でのおそろしい記憶が思い出されますが、彼にはそんな獰猛な気配はありません。マヨネーズのキャップの、ちょこんとした印象はあります。
「なんやぁー?」
「べぇやぁ、なんかあるかぁあ?」
「まぁだ、なんもないわぁぁ」
応答しているのは、その真下、紅皮に張りついて、カエルのポーズになった小鬼でした。彼の姿は、真実、手と腕を、同じサツマイモ色の壁に、べちゃりとくっつけているのです。体が溶け、そのドロドロに呼応するように、惑星の方も、ねちょねちょ溶けているようなのです。
「べぇやぁ」と呼ばれる、その小鬼は、壁を這って、下へ下へと向かっていきました。
「べぇやぁ、こえ聞こえるかぁぁー?」
「聞こえる、聞こえるぅ。あんまり呼ぶなぁ。気ぃ散ってぇ、落ちてまうぞぉぉお」
「そりゃぁやだぁー。心配なんやぁ、静かやぁとぉ」
というのも、もう既に、べぇやぁの姿は見えていないのです。宇宙の深い暗闇と、円錐形に垂れた、この惑星の形のせいです。ボルダリングというものがありますが、あのように、上へと反り上がっている地形なのです。
それに、体を乗り出して覗いても、小粒になって、赤色に同化したべぇやぁを見分けることは、できないことなのでした。
「べぇやぁぁぁ、疲れたら戻ってよぉーぉ」
「ばかぁーーぁぁ! 疲れてもうたらぁ戻れんやろがぁーい」
「あぁそっかぁ」
溜息をついたべぇやぁは、べちょんと音を立てて手を離すと、器用に体をよじって、半身ずつ降りていくのでした。
ねっちょり芋にねっちょり小人。こんな不思議な光景が、彼らにとっての日常です。そしてどうやら、べぇやぁは、この日常に飽きて、冒険にでも出かける様子でした。
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