第1章「個性のLiberte」

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「……ハ?」 希望からの『条件』に、私も幹大も月子もきょとんとした。 『幹大の為だけに動く』。学校の為でもなく、アイドルになる為でもなく、ただ一人の男子生徒の為だけに。 「そんな事が、許されると思っているのか……? 俺達はあくまで学校を『閉校』させない為にだな……!」 幹大が少し苛立ったように眉間にしわを寄せそう言うと、希望は「あら」と再び口を開いた。 「知ってるわよそんなの。『幹大君の為だけに動く』と『条件』は出した。けどその幹大君はこの学校を守る為に動く。なら私もその通りに動けば、何も問題はないでしょう?」 「それは……確かに……?」 希望の言葉に、月子は頭に薄らと疑問符を浮かべながらそう返した。 確かに、希望の言ってる事は間違ってはいない。だが1つだけ、『ただ一人の男子生徒の為だけに動く』という一言だけがどうしても引っかかった。『アイドル』として、そういうのはどうなのだろうか? だが、『幹大の為だけに動く』事が結果的に『学校を救う事』にもつながるのなら、それでも良いのかもしれない。 希望はクスッと少し笑いながら再び口を開いた。 「安心してください先生。『アイドル』としての職務はしっかり全うさせて頂きます。私が『ただ一人の生徒の為だけに動いている』なんて、今後現れるであろうファンに知られてしまっては、『不祥事』を起こした卒業生達の二の舞になってしまいますもの。そんなのは、流石の私も御免です」 と、そこまで話した所で希望は「あら」と何かに気づいたように自身の腕時計を見た。 「もうこんな時間。では、私はこれで失礼します」 希望はそう言って私達に一回お辞儀をしてからその場を立ち去った。 希望が去った後、幹大が「先生」と声をかけてきた。 「本当にのぞっ……白鳥先輩もその『10ユニット内のメンバーの1人』に入っているんですか?」 「残念だけどそうだよ。……ねえ幹大。希望はどうして幹大に拘るの?」 幹大からの問いに私がそう返すと、幹大は少し考えた後、再び口を開いた。 「……分かりません。幼稚園の頃からずっと一緒で、一緒に遊んでて。白鳥先輩は『しっかりものの頼れる、少し過保護な姉』のような存在でした。……けど、ただそれだけなんです。何故あそこまで、俺の為だけに動こうとするのかまでは……」 幹大がそこまで話した所で、月子が「多分、ですけど」と口を開いた。 「あくまで『仮説』なんですけど……、寧ろ『過保護だからこそ』ではないでしょうか?」 「『過保護だからこそ』……か?」 月子の言葉に幹大がそう返すと、月子は「はい」と頷いた。 「心配なんですよ、きっと。幹大君がほかの人と一緒に何かをするって事自体が心配なんです。ユニットメンバーにいじめられないかとか、誹謗中傷に耐えられるかどうか、とか」 月子のその言葉に、幹大も私も「成程」と妙に納得した。 確かに、『アイドル』になれば応援してくれる人もいるだろう。だが、その一方で所謂『アンチ』と呼ばれる人達も一定数存在する事も覚悟しなければならない。そうでなくとも、所謂『厄介なファン』と言われる人達がいる事も想定しておかなければ、いつか精神がやられてしまう。 もしも本当に希望が幹大に対して少し『過保護』なだけであれば、彼の事を心配し守ろうとする事も合点がいく。 「……とにかく、2人とも白鳥先輩の事はあまり気になさらないでください。俺も、なるべく気にしないようにしますから」 幹大はそう言った後、「では」と一つ会釈をしてからその場を去った。 気づけば、その日の昼休みが終わろうとしていた。幹大が去った後、私も月子も次の授業の準備の為に食堂を後にした。
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