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その日の放課後。
約束通りレッスンルームに着くと、そこには既に陽輝と月子が何やら準備をしている姿が見えた。月子の指示に合わせて陽輝が三脚のようなものを少しずつ動かしている。位置を調整しているのだろうか。……と、いうか。
「陽輝、その三脚とカメラどうしたの?」
私がそう声をかけるように聞くと、陽輝が振り向いて「あ、先生!」と口を開いた。
「これね、俺が『今度自己紹介動画撮ることになったんだ』って知り合いに言ったら貸してくれたんだ! その人、カメラで写真撮ったり動画撮ったりするのが趣味だからさ! 俺は別にスマホでも良いって言ったんだけど、『そういうのは機材にもこだわった方が良い』ってうるさくてさー」
陽輝の言葉に私は「そっか」と返した。
確かに、自己紹介動画は第一印象が大事になってくる。そうなると画質や内容にも気を使った方が良い。そう考えると、より良い機材を使った方がある程度の期待はできる。
しかも、陽輝が持ってきたビデオカメラは見た所最新のものだ。カメラに関してはあまり詳しくないのだが、最近のビデオカメラは画質等色んなものが進化していると聞く。おそらく動画を撮るには申し分ないくらいだろう。
そんな事を考えていると、レッスンルームのドアが開く音がした。
振り向くと、幹大と蒼紫の姿が見えた。
蒼紫は入って来るやいなや「ハ!?」と驚きカメラに近づいた。
「ちょっとちょっと、あんたそれ最新のビデオカメラでしょ!? 機能が色々充実してるやつ!」
蒼紫がそう言うと、陽輝が「ああ!」と頷いた。
やけに興奮している蒼紫とは対照的に、幹大はよくわかっていないようで首を傾げていた。
「蒼紫、そのビデオカメラそんなに良いものなのか?」
幹大がそう聞くと、蒼紫は「知らないの!?」と更に驚いたように返した。
「『良いもの』どころじゃない! このビデオカメラ画質も機能も『最高級』のもので、これを欲しがる人は大勢いるんだよ! 値段もそこそこするらしいけど……ちょっと陽輝! あんたこんなの持ってたわけ!?」
蒼紫の言葉に、陽輝は「『知り合いの』だけどな!」と返した。
「自己紹介動画撮るなら機材にもこだわった方が良いって、貸してくれたんだ!」
陽輝がそう言うと、蒼紫は「嘘でしょ……」と驚きを隠せない様子でつぶやいた。
「これを何の躊躇いもなく貸すって……しかも三脚付きで……こいつに……。その知り合い何者……?」
蒼紫は信じられないという表情でそう呟いた。
確かに知り合いに関しては私も気になるところだ。陽輝が『アイドル』を目指している事を知っていて、応援してくれている人なのだろうか? そうでもなければ恐らく蒼紫の言う『最高級のビデオカメラ』を三脚付きで貸してくれはしないだろう。
ふと、月子が口を開いた。
「な、なんかよくわからないんですけど、そのビデオカメラそんなに凄いんですね! なら『自己紹介動画』だけじゃなくてほかの事にも使えそうです!」
「ほかの事?」
月子の言葉に陽輝がそう聞き返しながら首を傾げた。続けて、今度は幹大が口を開いた。
「……もしかして、『オリジナル曲』の『MV撮影』……とかの事か?」
幹大のその言葉に、月子は「そうです!」と頷いた。
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