第1章「個性のLiberte」

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自己紹介動画を撮り終えた幹大は、私達の方に戻ってきたあと、安堵の溜息を吐いてから再び口を開いた。 「さて、次は蒼紫だな」 幹大の言葉に蒼紫は「はーい」と返事をしてから、先程まで幹大が立っていた場所に移動した。 その後陽輝がカメラの調整と確認を少し行い「よしっ!」と頷いた。 「さっき幹大君のを見てたからある程度は分かっただろ? ああいう感じで、よろしく!」 「はいはい、分かってるからさっさと撮るよ」 陽輝の言葉に蒼紫がそう返すと、陽輝は「つっめたいなー蒼紫君は!」と少し不満げな顔をして言った。 「……それじゃあ撮るよー! 3、2、1!」 先程と同様に陽輝がGOサインを出すと、先程まで少し怠そうな表情をしていた蒼紫の表情が一変し、微笑みの表情になった。 「どうも、初めまして。星架芸能専門学校アイドル科1年、『Liberte』の牧野蒼紫です。趣味はカフェ巡り。最近はうちの近くにあるカフェに週1で行ってるかなー。そこのパンケーキが凄く美味しくてさ。……まあ、そんなオレですが、これから『Liberte』のメンバーとして一所懸命頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願いします」 そこまで話した後蒼紫がお辞儀をした。その後少しの沈黙のあと蒼紫は再び「ん?」と首を傾げた。 「……ところで、オレの時はチャチャ入れたりしないの?」 蒼紫のその言葉に、陽輝が「いやー……」と口を開いた。 「なんか……完璧すぎてさあ……さっきみたいにチャチャ入れるの迷惑かなと……」 「いやわかるけどさあ? オレの時にもああいうチャチャ入れないと違和感あるでしょう? ……っていうかこれじゃオレがそういうのを求めてるみたいになるじゃん! やめてよーそういうの……」 陽輝の言葉に蒼紫がそう返すと、今度は幹大がボソッと言った。 「……なんだかバラエティー番組に出てくるタレントのような反応だな?」 幹大のその言葉に、蒼紫は「一応聞こえてるからね幹大!?」と反応した。 ……蒼紫には申し訳ないが、正直私も幹大と全く同じ事を思っていた。もしかしたら蒼紫は意外とバラエティーの仕事もできるかもしれない。最初会った時はそんな感じはしなかったのだが。 そう考えていると、蒼紫が一つ咳払いをしてから再び表情を戻して口を開いた。 「……一応まだ撮ってるよね。……まあ、見ての通り『Liberte』はまだまだ未熟者なスチャラカ軍団のようなユニットですが、これから頑張っていきます。改めまして、オレ達『Liberte』の応援よろしくお願いします」 蒼紫がそう言って再び一礼すると、陽輝が録画をそこで止め、録画は終了した。 「カーット! ……いやーなんか……凄いな蒼紫君って……」 陽輝が少し動揺したようにそう言うと、蒼紫が「当たり前でしょ?」と返した。 「『アイドル』になりたいなら自己紹介もこなせなきゃね。……まあ、途中でちょっとおかしい事にはなったけどさ」 蒼紫の言葉に、月子が「大丈夫ですよ!」と口を開いた。 「牧野君の自己紹介は完璧でした! きっと牧野君がどういう人なのかも見てくれた方がすぐに把握できるはずです!」 月子のその言葉に、蒼紫は「あっそ」と少しそっけなく返した。……まだ月子の事を信用しきれていないのだろうか。
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