プロローグ「それは突然に」

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「……今年も、新入生は少ないようですね」 入学式当日。続々と集まる新入生の数を確認しながら、私はそう言って溜息を吐く。その言葉に「そうだなー」と反応したのは、私の隣で同じように新入生の数を確認していた先輩教師―『来須壮馬(くるすそうま)』だった。 『アイドル』を引退した私は、私の親戚であり『星架芸能専門学校』の理事長である『響谷星路(ひびやせいじ)』からの提案もあり、この学校で教師を務めている。担当は地理―兼『アイドル専門科目』。『アイドル専門科目』というのは『アイドル』になる為に必須とされる科目の事で、主に『歌唱』『ダンス/ポージング』『演技』『コミュニケーション』の4つの科目がある。私の担当は『演技』。ちなみに来須先生は英語兼『ダンス/ポージング』担当だ。 「そういえば、またうちの卒業生が不祥事を起こしたそうです」 私が来須先生にそう言うと、来須先生は一つ溜息を吐いてから「知ってる」と返した。 「『True END』のユニットリーダーだろ? たしか『荒川駿(あらかわしゅん)』ってやつ。ったく、成人するまで酒は呑むなって保健の授業で教わったんじゃねぇのかよ……」 「彼、真面目に授業を受けるような生徒じゃありませんでしたし……おそらくその保健の授業も聞いてなかったのかもしれません」 「あー……そういやそういうやつだったな」 私の言葉に、来須先生はそう返して再び溜息を吐いた。 ―不祥事を起こす『アイドル』の殆どがこの学校の卒業生である事が影響してか、この学校の新入生が年々減少している。 はじめは『アイドル科』の新入生だけが減っていたが、だんだん『プロデュース科』や『俳優/声優科』など他の所の新入生も減ってきているらしい。それは確実にこの学校自体への信頼がなくなりつつある事を示していた。 その所為か、最近教師の間で噂になっている事がある。 来須先生が、また溜息を吐いてから再び口をひらいた。 「……このままじゃ、あの噂は本当になっちまうかもな」 「……『閉校』、ですか」 私がそう返すと、来須先生は「ああ」と頷いた。 ―そう。教師の間で噂になっている事とは、この学校が『閉校』するのではないかという事だ。 卒業生達の度重なる不祥事、それに伴うこの学校への信頼の低下、そして新入生の減少。……そのすべてを考えると、『閉校』という言葉が出てくるのも当然といえる。 中には「アイドル科だけをなくせばいい」という教師の意見もある。それはごもっともだが恐らくそう簡単にはいかないのだろう。 そんな事を考えていた、その時。 「お二人とも、少しよろしいですか?」 私達を呼ぶ声がした。声がする方を振り向くと、この学校で事務を担当している女性が立っていた。 「あー君か。どうした?」 来須先生が彼女にそう聞くと、彼女は「あの……」と少し言うのを躊躇ってからこう続けた。 「……理事長が、お呼びです」 「……ちょっと言うのを躊躇ったってことは」 来須先生のその言葉に、私は「おそらく……だと思います」と返すしかなかった。 その後、私は来須先生と事務の女性と共に理事長室へと向かった。 ―今私が考えていることが、杞憂であってほしいと願いながら。
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