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理事長室の前まで来ると、私は一つ深呼吸をした。……多分、そうでもしないと心を落ち着ける事が出来ないと判断したからだ。
事務の女性が理事長室のドアをノックすると、中から「どうぞ」と声が聞こえてきた。
「……覚悟はできてんな?」
隣にいた来須先生が、私にそう耳打ちしてきた。私は、とりあえず頷く事しかできなかった。
一呼吸おいてから、「失礼します」と事務の女性がドアを開けて中に入る。私と来須先生もその後ろから理事長室に入室し、そして。
「……えっ?」
全く予想できなかった光景に、驚きを隠せずにいた。
そこにいたのは理事長―と、5人の生徒だった。
私の声に真っ先に気づいたのは、私から見て一番右端にいた男子生徒だった。彼は振り向くや否や「おお!」とどこか嬉しそうな表情で私に近づいてきた。
「おはよう先生方! まさか2人も理事長先生から『お呼び出し』なんてなあ!」
「いや、そんな嬉しそうに言うんじゃねえよ。状況分かってんのか、『黒田』」
来須先生がそういうと、『黒田』と呼ばれたその生徒は「勿論!」とどこか自信ありげに返した。……本当に分かっているのだろうか。
―『黒田』、と呼ばれたその生徒の名前は『黒田克馬(くろだかつま)』。彼はプロデュース科の3年なのだが、一時期不登校気味だった為か単位が足りておらず、1年留年することになった生徒だ。
その左隣にいるのは『猪飼直幸(いのがいなおゆき)』。彼もプロデュース科の3年だ。確かアイドル科に1人妹がいるんだっけか。
そんな事を考えていると、その直幸が一つ溜息を吐いた。
「克馬さんってば能天気すぎますよ……。僕なんて、これから何言われるんだろうってビクビクしてるのに……」
直幸がそう言うと、克馬は「ハッハッハ!」と笑いながら直幸の背中をバンバン叩いた。
「そんな事気にしてたら胃が痛くなるぞ直幸!」
「いたっ、痛いです……背中叩かないでください……!」
そんな直幸の言葉をガン無視するかのように、克馬は再び「ハッハッハ!」と笑った。
するとそんな2人の様子を見ながらクスクスと笑っている生徒がいた。
「克馬先輩も直幸先輩も、愉快なお人やなあ」
「本当ですわね、理事長の前だというのに……」
2人のその言葉に、克馬が「おっと、そうだったな」と言いながら直幸から離れ、再び並び始めた。続けて直幸もまた溜息を吐いてから列に並ぶと、理事長が「うん」と口を開いた。
「これで全員揃ったようですね。では、早速ですが本題に入らせて頂きます」
その言葉に、その場にいた全員が一気に真剣な表情に切り替わる。先程まで満面の笑みを浮かべながら直幸にじゃれていた克馬でさえ、キリッとした真面目な表情になった。流石理事長。
……っと、そんな事を考えている場合ではなかった。この後言われるであろう事は大方想像がついている。
……あれ、けどなんで克馬と直幸含むこの5人も一緒に?
そんな事を考えていると、理事長の口が再びゆっくりと開かれた。
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