プロローグ「それは突然に」

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「近年、この学校の卒業生達の不祥事によるアイドル引退が増えています。……それは、皆さんご存知ですね?」 理事長がそういうと、「たしか」と直幸が何かを思い出すように口を開いた。 「今朝もそんなニュースがあってましたよね? 『荒川駿』っていう……」 直幸のその言葉に「ああ」と反応したのは、克馬だった。 「俺が1年だった頃、放送委員会の委員長だった。まあ、委員会どころか学校自体ほとんどサボっていたような先輩だったがな……。理事長も、当然存じ上げているのだろう?」 克馬がそういうと、理事長は「嘆かわしい事ですが」と悲しそうな顔で答えた。 「さて、話を戻しましょう。……ここから先は教師であるお二人なら大方想像できているかと思いますが、度重なる不祥事が原因で新入生が年々減少傾向にあります。加えてこの学校からデビューした生徒達の人気も低迷気味。この学校に対する信頼度は確実に少なくなってきており……このままでは、この学校を『閉校』せざるを得なくなってしまいます」 「『閉校』……!?」 理事長の言葉に1人の女子生徒がそう返すと、理事長は「そうです」と返事をした。 その返事に5人の生徒達はどよめき始めた。だが大方想像ができていた私と来須先生は大して驚きもしなかった。だが、1つ疑問はある。その疑問について質問しようとしたが、丁度直幸が私と同じような質問を理事長にしてくれた。 「あの、それはわかったのですが……先生方はともかく、どうして僕達も呼ばれたんですか……?」 直幸がそう質問すると、理事長が再び口を開いた。 「それをこれからお話しします。……『木村』さん」 理事長のその言葉に、『木村』と呼ばれた事務の女性が「はい」と返事をした。その後近くの机に置いてあった10枚の封筒を手に取り、直幸達に2枚ずつ「どうぞ」と手渡した。 「あの……これは?」 手渡された封筒を見ながら克馬がそう聞くと、理事長は再び説明を続けた。 「……実は上の方からも、『閉校』の件を言われておりまして。なんとか説得して『閉校』に関して少し待っていただけることになりました。……『条件付き』で」 「『条件』……?」 1人の女子生徒がそう聞くと、理事長は5人の生徒の顔を1人1人見てから再び口を開いた。 「『鈴掛月子(すずかけつきこ)』さん、『長谷川桜華(はせがわおうか)』さん、『西園寺智津(さいおんじちづ)』さん、『猪飼直幸』君、『黒田克馬』君。貴方達5名にこれからプロデュースを担当していただくアイドルユニット、計10ユニット。その『すべてのユニットが有名になる事』。―それが、上から言い渡された『条件』です」 理事長のその言葉に、理事長と木村以外の全員が驚いた。私も、おそらく来須先生もここまでは流石に予測できなかった。 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 10ユニット全てを有名にしろって、そんな無茶な……!」 流石に焦ったのか克馬がそう言うと、理事長は「そうですね」と冷静に返した。 「普通に考えれば難しい事でしょう。ただでさえ『アイドル戦国時代』と言われるようなこのご時世に10ユニットも有名にしようだなんて。……しかし、だからこそそのプロデューサーに貴方達5名を選んだのです」 「私達を……?」 理事長の言葉に1人の女子生徒がそう返すと、理事長は「そうです」と返した。 「貴方達5名なら、きっとその10ユニットを有名にしてくれる。私はそう信じます。水晶も、そう示してくれました」 理事長はそう言いながら、理事長の机の上に置いてあった水晶玉を数回撫でた。 理事長が趣味で行っている水晶占いは、よく当たると評判だ。……多分、今回もきっと間違いではないのだろう。 「……どうでしょう、やっていただけますか?」 理事長はそう言って5人を見た。5人は少し考えるようなそぶりを見せたが、しばらくして1人の女子生徒が返答した。 「私、やります! プロデューサーとしてはまだまだ未熟者ですが、『鈴掛月子』、精一杯頑張ります!」 『鈴掛月子』と名乗った女子生徒の言葉に、他の生徒も次々に口を開く。 「……せやなあ。うちも出来るだけやってみるわ。なんやちっと面白くなりそうやしなあ」 1人の女子生徒がそう言ってクスクスと笑うと、あと1人の女子生徒が「面白いかはともかく」と口を開いた。 「やりがいはありますわね。絶対有名にして差し上げますわ! ……お2人も、当然受けるのでしょう?」 女子生徒が克馬と直幸の方を見てそう聞くと、克馬は「当たり前だ!」と返した。 「もっと言えば、この俺がプロデュースするからには不祥事など一切起こさせない! その辺はきっちりさせてもらうぞ! なあ直幸!」 克馬が直幸の背中をバンバン叩きながらそう言うと、直幸は「だから背中を叩かないでください……!」と返事をした。 「けど、そうですね……。自信はありませんが、やれるだけ、やってみます。学校が『閉校』するのは、嫌ですし」 5人の返答を聞き終えたところで、理事長が「うん」と頷いた。 「皆さんならそう言ってくれると思いました。……ああそれから、貴方」 「え、私……ですか?」 ふいに理事長から指をさされた。私がそう聞き返すと、理事長は「ええ」と口を開いた。 「貴方にはこれから、この5人のプロデューサー科の生徒達及び担当することになる10ユニットのサポートをお願いしたいのです。もしも生徒達が困っている時やつまづいている時は、支えになってあげてください」 理事長からのその言葉に、私は「わかりました」と返事をした。 ―かくして、5人のプロデュース科の生徒、10のアイドルユニット、そして私による『閉校を免れるための一大プロジェクト』が幕を開けたのだった。 【第1章 『Liberte』編に続く】
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