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月子もその声が聞こえたようで、顔をあげて幹大の方を見た。
「喜友名君……?」
月子がそう聞き返す。幹大は真面目な顔で、言った。
「大丈夫だ。俺は卒業しても絶対に『不祥事』など起こさない。陽輝も蒼紫も、そんな事をするやつだとは思えない。……それと」
「それと?」
今度は私がそう聞き返した。幹大は一呼吸おいてから、決心したように続けて言った。
「……この学校には、両親も通っていた。父は月子と同じ『プロデュース科』で、母は先程の奴らと同じ『俳優/声優科』だった。両親も、この学校の事を心配していた。……両親の為にも、この学校は絶対に『閉校』させないからな」
幹大のその言葉に、月子が「喜友名君……」と少し安堵したように返した。
正直、私も少し安心した。さっきのあの3人の会話が深く突き刺さり、その所為で活動自体ができなくなってしまったらどうしようかと思った。
……私も、しっかりしなければ。改めてそう決心した、その時だった。
「話は全て聞かせて頂きました」
そんな声が聞こえてきた。ハッとして声がした方を向くと、そこに立っていたのは、銀色の髪色に赤い瞳の女子生徒だった。
幹大も月子もその姿を見たようで、月子は少し困惑したように彼女を見つめていた。一方幹大の方は呆れたように一つ溜息を吐き、口を開いた。
「盗み聞きですか。相変わらずですね。―『白鳥先輩』」
幹大がそう言うと、『白鳥先輩』と呼ばれたその人は「当たり前よ」と返した。
―彼女の名前は『白鳥希望(しらとりのぞみ)』。この学校の『アイドル科』に所属する2年生だ。彼女が1年生の時、彼女がいたクラスの担任を勤めていた為、彼女の事はよく知っていた。
だが月子は新入生の為、突然現れた希望を見て「え、えっと……」とずっと困惑している様子だった。まあ、そうだろうな。
……あれ、そういえば。私はふと浮かんだ疑問を幹大に聞いた。
「幹大、希望の事知ってるの?」
幹大は「ああ」と返し、続けてこう言った。
「『白鳥希望』先輩と俺は、『幼馴染』だ。幼稚園の頃からずっと一緒だった」
「『幼馴染』!?」
私も月子も、幹大の言葉に驚いたように希望を見た。希望は「あら?」と首を傾げた。
「先生にも言ってませんでしたっけ?」
「聞いてない! 聞いてないよそんなの!」
希望の言葉に私がそう返すと、希望は「そうでしたかー?」と笑いながら言った。
……まさか、幹大と希望が『幼馴染』だったとは。
未だに驚きを隠せずにいると、希望は「さて」と再び口を開いた。
「話を戻しましょう。話は全て聞かせて頂きました。この学校が『閉校』するかもしれない事も。『アイドル科』の卒業生達の『不祥事』が原因である事も全て」
「あの、じゃあ『閉校』を免れるための『条件』の事は聞きましたか……?」
希望の言葉に月子がそう返すと、希望は「『条件』……?」と首を傾げた。どうやらそこまでは聞いていなかったようだ。私は希望に答えるように説明した。
「この学校が『閉校』しない為には、幹大がユニットリーダーを務める『Liberte』を含む『10ユニット全てが有名になる事』が『条件』なんだ。ちなみにその『10ユニット』のメンバーの中には、希望も含まれている。……本当はあとでちゃんと希望に話しに行くつもりだったんだけど」
私がそう言うと、希望は「あら、ごめんなさい」と返した。
「けど、そうですか。私も含まれているのですか。だったら、私も頑張らないといけませんね。……ただし、私からも一つ『条件』を出してもよろしいでしょうか?」
「『条件』?」
今度は月子がそう返した。月子は「ええ」と頷き、続けて言った。
「……『私は、幹大君の為だけに動きます』」
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