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思わず大きく口を開けて叫ぼうとすると、ぱっと口を塞がれる。振りほどこうとするが力が強い。暫くじたばたともがくと離してくれた。
「この程度で叫ばないでよ。面倒臭いな」
ずい、とウサギが迫る。見覚えがあると思ったら去年の文化祭で客寄せに使われていた着ぐるみだ。誰かが何かに突っ込んだのか、顔の半分くらいに染みが広がっている。そのせいでもう要らなくなったのかもしれない。
「いやだから近! てか怖!」
その頭を押しのけてからはっとする。鋭い視線で周囲をきょろきょろと見回す。
「紗季? 愛花? どっちかどっちもか知らないけどこれは悪質だからね! 関係ない人巻き込むなんて!」
「何してんの?」
「何って、悪人を探してるの。誰だか知らないけどあなたも怒るべきだと思うよ。そんな格好させられて……」
びし、とウサギ頭を指さしたのと、ぴろんと電子音が鳴ったのはほとんど同時だった。思わずこちらに向けられたスマートフォンのカメラを凝視する。
「いやあ、面白い顔してんなと思って」
画面には般若のような顔をした自分が写っていた。
「不細工……せめてノーマルカメラ以外で撮って欲しかった……」
「そういう問題?」
くぐもっていても馬鹿にしているのがわかる。腹が立ったからウサギ男と命名することにした。
「なんかよくわかんないけど、俺はその人たちとは特に関係ないよ。誰だかよく知らないし」
「え」
思いもよらぬ言葉に目を瞬く。
「じゃあ趣味でそんな変な格好してるってこと?」
「趣味っていうか……あー、まあいいやそれで」
ウサギ男は首筋を撫でると、面倒臭くなったのか会話を投げた。
「で、何」
「何って何が?」
「わざわざここに来たってことは俺に用があるんじゃないの」
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