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2XXX年、日本は2つに別れていた。
日本北部の戦闘型、『ナイト』
日本南部の頭脳型、『シーク』
二つの組織の境は千葉県付近だ。
どちらが領地を広くできるか。自分達の土地を豊かにできるか。
お互い対立し、相手を倒そうと構えていた。
そんなナイトとシークの間、千葉県付近にある、
『白岡高等学園』。
白岡高等学園は毎年優秀な生徒を卒業させており、その生徒達は“文武両道”という言葉にぴったりだった。
頭脳明晰であり、戦闘訓練も受けている。
戦争に使うのはもってこいだった。
“戦わせる”ではなく“使う”。
各組織のトップには、人が道具でしかなかった。
白岡高等学園に入学することは難しい。
資質がないと見なされた者は受験をする権利すら与えられない。
白岡高等学園の生徒は、子供たちの憧れだった。
戦闘・頭脳・容姿。
全ての要素を兼ね備えた生徒が集まる学園。
白岡高等学園をナイトとシーク、どちらが手に入れるか、
妥協点が見いだせるはずもなく、
論議は平行線を辿ったが、武力行使で解決すると可決した。
もはや日本は一つの国ではなかった。
ナイトとシークが別々の国のようだった。
そんな複雑な時代に生まれたナイトにある
北玉村の
赤坂るうら。
赤茶色の艶やかな髪を一本で結い、
華奢な体からは想像もつかないほどの
技を繰り出す。
地元では“るうらに敵うのは獣のみ”とまで言われた、いわゆる『地元の最強』というやつだった。
るうらの武術の指導者であり、るうらの兄、赤坂拓也はナイトの武力本部
『S』の攻撃部隊長で
稀に家に帰ってきてくれる。
戦闘と訓練の合間を縫って、馬に乗り大急ぎで帰ってくる兄。
そんな拓也をるうらは慕い、拓也もるうらを可愛がった。
るうらは拓也の帰りに
暖かい夕飯を作って待っているのが日課だった。ほかほかの白米に、薄味のお味噌汁。
今か今かと待っている様子は実に健気で、切ない。
拓也は、帰ってきたときにるうらに
たびたび武術を教えてくれていたのだが、今晩は違った。
ガンガンガン
雑なドアの叩きかた。
るうらは不穏な空気を察し、鳥肌がたった。
拓也は沢山の血だらけの兵士に抱えられた、小さな木の箱に入って帰ってきた。
その箱は、誰のかわからない血が染み込み、鮮やかな赤色に染まっていて氷のように冷たかった。
箱を開けると、拓也の首が入っていた。
目を開けたまま。唇や肌は青く、恐怖が全身を這う。
地球が怒りに狂うように雷がなる。
地球が悲しみにくれるように雨が降る。
心にピシッと亀裂が入った。
「すみません、るうらさん...」
箱を抱えた兵士が涙ぐみながら呟いた。
「兄さんは...どんな様子だったの。」
震える声でそう訪ねた。
拓也の妹は、気丈でなければいけない。
そう思っていても視線が、拓也から動かない。
拓也の虚無な瞳が、るうらをあっちへ連れて行ってしまいそうだ。
どんな風に死んだのか。
どうして死んでしまったのか。
ずずっと鼻をすすった後に、もう一人の兵士が口惜しそうに言った。
「駆けつけたときには...もうどうしようもない状態で...。」
─る、るうらの笑顔が...見たかったなぁ...
死ぬ前に呟いたのは、妹の未来を心配する言葉だったという。
果敢に剣を振るい、隊を指揮していた拓也はとても憧れだったと。
「拓也さんは、いつも先頭で戦ってくれました...気持ちがめげそうになっても励ましてくださって...」
─なぁ、俺たちがなぜ戦っているか。
皆を守るため...違う。
ナイトを守るため...違う。
家族を守るためだ。
命が惜しくて当たり前。
心配するな。俺がいるかぎり、負けないから。
「拓也さんを守れなくて、本当に不甲斐ないです...!」
「申し訳ございませんでしたっ!!!!!!」
兵士の皆が頭をさげる。
ポタポタと床に涙がこぼれ落ちる。
心がパリンと砕け散る。
その破片は、玄関から吹き抜ける風によってどこかへ飛ばされた。
頬を伝う涙が風で冷たくなる。
「やめて!私は...貴方達に謝って欲しいわけじゃない!」
残った心の破片をかき集めて、なんとか元の状態に戻そうとする。
シークが憎い。
大好きなお兄ちゃんを...
深い悲しみを恨みに変えてふぅ、と息を吐いてから言った。
「ねぇ...父の元へ連れていってちょうだい。」
兵士達は驚いて顔を見合わせた。
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