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「はは、頑張ってくれよ。新任スパイとして、防弾チョッキ、ショットガン等を贈呈しよう。
どれも良いものだぞ。
それと、ここから東に二キロ歩いた所にある○○地区の訓練所に行くといい。
きっといい体験になる。」
「防弾チョッキ...いつ揃えたのですか?」
「ああ、るうらが来るんじゃないかと思ってな。」
気を付けろよ、と目を細める父の笑顔を脳裏に刻み、訓練所へと歩きだした。
日光を反射するビル。
有象無象の車。があったはずの道路には今は馬が走っている。
戦の最中だからだろうか。
我が物顔で通っていく沢山の歩行者。
チカチカと点滅する信号機。
熱を反射する暑苦しい交差点。
街並みは昔と変わっていないらしいのに、
世の中の仕組みは大きく変わってしまった。
兄の仇をとるため。
その思いを胸に、ひたすら歩いた。
東に二キロ。
歩いた所には和風のお屋敷のような大きい門が構えていた。
門の奥には 広い庭があり池や、苔がついた岩、木造の大きいお屋敷などが顔を覗かせている。
ここだけ空気が違う...?
神社に行ったときのような清らかで重たい空気。
表札には
「三川」
の文字。
門をくぐりよく通る声で言った。
「すみません、三川さんいらっしゃいますでしょうかぁ~」
ふぅ、と一息。
「すみませぇぇ~ん!!」
「はぁ~い」
びくん、と肩が跳ねあがる。
柔らかな声音。
川のせせらぎのように落ち着く声だった。
ガララっと扉を開ける音がする。
「え~と、何だったかしらねぇ」
ぶつくさ言いながら出てきた人影を見てその場の空気がピンと張りつめる。
どんな人なのだろう。
好奇心と緊張が同時に襲ってくる。
顔を...見てみたい。
どんな威厳のある人なんだろう。
これから教えてくれる師匠は...
どんな人だろう。
好奇心の勝ち。
門の影からチラリと中を覗いた。
ドクドクと心臓が鳴るのを感じる。
「んなっ!」
はっ、と気付き慌てて口を手で押さえるがもう遅い。
てくてくと歩いてきた人影は、にかっと笑った。
「ようこそ三川邸へ。るうらさん。」
そこにいたのは息を呑む程美しく、周りのつぼみも花開くような絶世の美人であった。
声も透き通っていて、癒されそうで優しい。
髪をおろしているが、艶やかで緩やかにカールしている。
前髪をひっつめただけのるうらとは、あまりに対照的であった。
「あ、あぁよろしくお願いします。」
深い緑にあでやかな牡丹があしらってある着物から覗く手をしっかりと握った。
「これから、貴女を指導する三川 奈乃葉です。」
「赤坂るうらです。」
「貴女の父親がSの創設者でも私は手加減しませんよ?」
首をかしげ、挑発的に微笑んでいる。
「わかりました。」
るうらもニッコリ微笑んだ。
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