27人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふふ、このような人が私の弟子とは頼もしいですね。
では、私を好きなように殴りなさい。」
「...え」
奈乃葉が芝生の庭にゴロンと大の字に寝る。
「早く殴りなさい。蹴ってもいいですよ?」
どうしていいのかわからない。
「本気じゃなくてもいいのですか?」
「お好きなように。」
ニコニコと微笑んでいる奈乃葉を見つめ、
拳をギュッと握りしめる。
奈乃葉の着物の深い緑の中に浮かぶ牡丹目掛けて、精一杯の拳を振り落とす。
ブォンッ!
風を切り、体全体を使って奈乃葉に殴りかかった。
パシンッ
─弾かれた...!
「...え」
次の瞬間、るうらは尻餅をついていた。
殴りかかったのは、自分なのにいつの間にか転んでいる。
訳がわからず呆然としていた。
「るうらさん、何が起こったのか理解できていませんね」
奈乃葉の笑みが怖くて仕方がない。
るうらはゆっくり顔を縦に振った。
「あなたが私に殴りかかったとき、私はあなたの手を振り払ったのです。ただそれだけのことですよ。」
「え...ではなぜ尻餅を...?」
「あなたの拳の威力はとてつもないです。
先ほど受け止めてみて、改めて感じました。
幼少期から武術をたしなんでいた、ということにも頷ける。」
カコン、カコンと下駄を鳴らしながら歩いている奈乃葉には異様な雰囲気が漂っている。
「しかし」
「あなたの拳は威力がある割に軌道がしっかりしていないのですよ。
あなたの力を曲げてしまえば、あなたの体も拳にもっていかれる。
そのため、私が手を振り払っただけで尻餅をついてしまったのです。」
「それに、あなたは今恐怖を感じている。
一度負けてしまうと怖じ気づいてしまうのですね。
本当の戦いで恐怖を感じていたら殺されますよ?」
どこか父に似ている冷徹な瞳。
これほど殺意を全身で感じたことはなかったので、るうらはすっかり怖じ気づいてしまった。
その心境を奈乃葉は
ズバリと言い当てていた。
「あなたの恐怖心と軌道のブレは命取りですねぇ...」
あっ、と名案が浮かんだような顔をした奈乃葉はニヤリとわらった。
「るうらさんはここに泊まって修行するのですよね?」
「そのつもりです。」
「ならあなたの部屋を紹介しなくては。」
言うが早いか、スタスタと行ってしまう。
「早く来ないと置いて行きますよぉ~」
「あ、はいっ師匠!」
華奢な奈乃葉は意外と歩くスピードが速く、小走りで追いかける。
移り変わる木目の壁。
落ち着くお香の匂い。
最初のコメントを投稿しよう!