02 数多の思惑。願い貫く恋物語

21/21
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
 ◇ 「全く、本当に望むものほど、思い通りにはならないものだな。影、いるかい?」  叶が、誰もいなくなった保健室で言葉を漏らすと、いつからそこにいたのか一人の女子生徒が側に立っていた。彼女は、じっと叶のことを見つめながら言葉を待つ。 「ファンクラブの件、仕上げを頼むよ。彼が体まで張ってくれたんだ。絶対失敗しないようにね」 「御意」  次の瞬間には、彼女の姿は消えていた。  叶は保健室の窓から、肩を落とし歩く寄の姿を捉える。勝者である筈のその後ろ姿は、どこまでも敗者にしか見えなかった。  彼はどこにでもいる普通の少年だ。そこそこに勉強ができて、平均よりも少しだけ運動が得意。欲求に素直で、苦労することを嫌う。ひねくれものだけど、優しい子。  彼になにか特別なものがあるとするならば、それは天才と呼ばれる彼女の隣に普通に居続けられることだろう。  その姿は健気で、一生懸命で、愛らしい。  寄の背中に向かって微笑みながら、叶はそっと呟いた。 「さて、次はどんな意地悪をしようかな」  自分の心がわくわくしていることを、叶は理解していた。これまで生きてきた人生の中で見たことのない、面白い生き方をしている少年。彼を見る彼女の目は、玩具を与えられた幼子のようにキラキラと澄んでいた。  
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!