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その時だった。不意に、二人きりの科学室の扉が勢いよく開かれた。普段から来客など皆無なので、揃って慌てながら扉の方を向くとそこには一人の男が立っていた。
角刈りの短髪と、鋭い目つきに太い眉。丸太のような腕に、高い身長と分厚い体躯が圧倒的な威圧感を醸し出している。風格は教師にも引けを取らないが、着ている制服と学年毎に色分けされた上履きから三年生であることがわかった。
男は、俺の奥へと視線を向けると大股でこちらへと近付いてきた。
「見つけたぞい。我が姫よ。今日も変わらず愛らしい。儂と交際をしてほしいぞい」
俺を道端の石かのように意にも介さず通り過ぎて彩江の前まで行き跪くと、恥ずかしがる素振りも見せず愛の告白をした。場面だけを見ると、少女漫画のような素敵な光景なのだが、ぐるぐる眼鏡とよれよれ白衣の女とゴリラみたいな男では色物にしか見えなかった。
彩江は、珍しくあたふたしながら男に向かって返した。
「いや、あの、この間からずっと断っているじゃないっすか。付き合う気はないと。そろそろ諦めてもらえないっすかね。えーと、ゴリラ山十兵衛先輩?」
「どうしても好きなんだぞい。諦められないんだぞい。あと、儂の名前は猿川五右衛門だぞい」
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