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9.
***
『で、結局そのまま居座ることになったのよねえ……』
数日後。
すっかり元気になった神が、ネコネの自宅でテレビに熱中している様子を前に、万年筆姿のナギナがいかにも不満たっぷりな声を上げた。
「そんな声出さないの。ナギナだって一度はいいって言ったじゃない」
『そうだけどぉ。あのときは身体張ったから、ちょーっとだけ見直しそうになってたのよう。結局何が変わるわけでもなし、相変わらずただ見た目が綺麗なだけのポンコツなんだもの……』
調子を取り戻した神は、ナギナの呆れを気にかけもせず、ネコネにべったりつきまとい、幸せにするだの役に立つだの豪語しては足手まといになり続けている。
『ネコネ。アンタが将来駄目男に引っかかりそうで、アタシはとっても心配だわ。というかもう、手遅れな気がするわ……』
「なんだ、我の話か? ネコネ殿はたった一人の信者だからな! 我は力一杯、報いていくつもりだぞ!」
ナギナとネコネが後ろで話しているのが気になったのか、神はくるりと振り返ると機嫌良く喋っている。
「別に信者になったつもりはありませんけど、あなたが妖に襲われたら守るのは私の役割ですから。視界の範囲内にいてくださいね、リューリ様」
ため息を吐きかけていたナギナも、再びテレビのバラエティ番組視聴に戻りかけていた神も、ネコネの言葉にびたっと止まった。
「……リューリ様?」
「いつまでもただの神様じゃ味気ないでしょう。龍と鯉で龍鯉様。どうです?」
『龍はどっから来たのよ』
「そのうちいつか、滝登りしてくれないかなって期待を込めて」
『馬鹿ねえ、鯉は死ぬまで鯉よ……』
肝心の神様本人は黙りこくってぶるぶる震えていた。のんきに会話していた二人だが、もしや気に入らなかったのか、と心配そうに顔を見合わせる。
しかし、顔を上げた神の顔が歓喜で涙と鼻水まみれなのを見るやいなや、杞憂だと悟った。
「ネコネ殿ーっ、愛しているのだー!」
『だあああ、離れなさい、このポンコツ!』
「幸せにするのだー!」
抱きつこうとした神を、瞬時に長刀化したナギナが阻み、二人は押し合いへし合いをしている。
それを見て、ネコネは彼女にしてはとても珍しく、声を上げて笑った。
ひょんな縁から突然上がり込んできたダメダメの神様が、この先本当に福を呼んでくる守り神になるのかは、ともかく。
ネコネの年末と新年は、いつになく明るい空気の中で迎えられそうだった。
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