side E 偽善だって知ってた

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side E 偽善だって知ってた

夏休み明けの新学期。私は凪沙ちゃんと文化祭の掲示板のデザインを考えていた。 「そもそも絵心がないからだめな気がする…」 「わかる。明日誰かにやってもらお。今日サボってる人いるし」 早々に諦めた。 凪沙ちゃんとは入った部活が偶然同じで仲良くなれた。凪沙ちゃんが話しかけてくれた時、とても嬉しかったのを今でも覚えている。 部活の日は活動そっちのけでいろんなことを話している。 凪沙ちゃんの元彼の話もするし、良基の話もたまにする。 凪沙ちゃんと良基が連絡を取り合っていることには少し嫉妬したけれど私に口を出す権利はない。 それに凪沙ちゃんのことが好きだし、昔と変わらない向日葵みたいなきらきらしたオーラはずっと私の憧れだから。 触れたことがないのは剣道の話くらいだ。 凪沙ちゃんは私が中学の時凪沙ちゃんを見たことがあるのを知らないし、私は凪沙ちゃんが新聞部に入部した時点で何も聞けなかった。 「そういえば私、夏休み前に二週間くらい休んで、部活の仕事押しつけてごめんね」 「あ、ううん… 全然大丈夫だったよ」 凪沙ちゃんにしては珍しく歯切れの悪い返事だった。 「何かあったの?」 凪沙ちゃんは聞いてないのかとかまあいいかとか呟きながら 「私、この前のサッカー部の試合見に行った後クズ橋に振られたの」 冗談っぽく、絵琉ちゃん敵討って、と続けた。 「え、凪沙ちゃんが振られたの?」 「うん」 そんなことないよ。あるはずがない。だって良基は凪沙ちゃんに会いたくてこの高校を選んだのに。 凪沙ちゃんが良基のことを好きだったということも今知って驚いているけれど、それ以上に驚いたのが良基が凪沙ちゃんを振ったことだ。 凪沙ちゃんは窓の方に足を伸ばし、秋晴れの空に身を乗り出した。 「恋愛感情が分からないんじゃあ仕方ないよね」 「そんなことないよ…」 自分が思っていたより大きな声が出た。凪沙ちゃんにちゃんと聞こえるくらい。 「良基が恋愛感情が分からないって言うのは言い訳なだけだよ」 良基が隠していることを私が話してはいけない。だけど私は、良基を手放したくないのと裏腹に凪沙ちゃんに良基を守ってほしいとも思ってしまう。 「恋愛感情が分からないっていうのが言い訳だとしても、その理由が分からないから私はどうしようもないんだ」 凪沙ちゃんは少し寂しそうに笑った。 凪沙ちゃんが言っていることは正論で、おかしいのは私と良基の関係の方で。 自分の好きな人のことで自分の知らないことを他の女の子から聞くのが嫌なのは明らかで、そんなのは当たり前で、私は口を噤んだ。 ずっと、凪沙ちゃんの髪が風に揺られるのを見ていた。
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