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side E 私だけ幸せな世界
私は凪沙ちゃんに何なら話してもいいのだろう。
「気にせずに知ってること全部教えほしい。その方が助かる」という凪沙ちゃんの言葉に安堵して、話し出す私は我ながら口が軽いと思う。
私と良基にはもうお母さんがいないこと、最初に良基のお母さんが亡くなって先日私の母もこの世を去ったということ、順を追って話そう。
立て続けに周りの女の人がいなくなったせいで良基は自分の周りの女の人がいなくなることを極端に怖がっていること、それから。
「私たちが小学生の頃、良基のお母さんが亡くなって良基はお父さんと上手くいってなくて、ほとんど私の家で私と私のお母さんと生活してた。私のお母さんと良基のお父さんは幼馴染でお互い信頼してたからあんまり問題はなかったんだ。私のお母さんはたまに夜に副業で家を空けてたから、良基がいるとお兄ちゃんみたいで私も嬉しかった」
そう、最初は純粋にお兄ちゃんみたいだと思っていた。
「でも、当たり前だけど私と良基は血が繋がってない。今までずっと一緒にいたけどお互い恋愛感情はそんなに湧かなかった。キスしたいとか思ったことないし。だからいつかどっちかに好きな人が出来たら別れないといけない。その別れがいつか来るのが怖くて」
全部話し終えると凪沙ちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
「ごめんなさい。お母さんのお葬式の後に私が良基に独りにしないでって言ったから良基は凪沙ちゃんに応えられなかったんだと思う」
それは全然気にしてないから、と凪沙ちゃんは目を伏せた。
「教えてくれてありがとう。絵琉ちゃんのこと好きだから、少し考えてみる」
その後は凪沙ちゃんの友達が働いているファミレスで一緒に夕飯を食べて帰った。
私はもう自分の気持ちが分からない。
誰かに良基を盗られたくないのに凪沙ちゃんなら良基の危ういところを全部助けてくれるんじゃないかと思ってしまう。
凪沙ちゃんにも良基にも幸せになってほしいけれど、そうすると私と良基の共依存は邪魔でしかない。
だけど家に帰ると良基がいる。
この幸せを今すぐ手放す勇気はなかった。
罪悪感と安心感を胸に、私は家の玄関に立った。
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